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群青の心境と黄金の自転車道の謎を追え!【事件編】
短い夏が終わりかけて、匂いが秋になっていた。
本当に良い匂いの季節だ。人生において、私が食欲を最優先するからではない。
私の住む秋田県は、蝉からスズムシ・コオロギなどに、夜の音色が変わっている。
そして、収穫が近づいた農作物が作る風景もより綺麗になった。
あれ、やっぱり食欲じゃ……。げふんげふん。
日中の最高気温が30℃を超えることが少ない。
それは虫や植物、動物たちが、快適に暮らせる温度なのだ。
そういうわけで、秋風が優しく吹くと、穏やかに暮らす生き物の匂いがする。
この環境の優しさ、すごく眠くなる季節だ。
さて今、大館市は、夏の名残の中。夏の終わり、秋の始まり。雲の形も、行き合いの空だ。
最近では、3、4日間ごとに、寒暖の日々をくり返している。
心なしか、朝晩の寒暖差も大きい。これが北東北地方らしい、残暑という状態なのだろうか。
ただ、秋晴れの下では、まだ暑い。何だか浮かれていた夏が、そのままであるような気がする。
私たちは小さな日常の謎を追った。自転車で黄金の道を進んだ。
4人分の思い出、あの青さが重なる。心の中は、群青だった。
そもそも、だ。
この件の始まりは、前の案件、長走風穴の話からである。少し、私の回想。時系列では、もう1つ戻る。
復学した高校生活の話、そのエピソードの1つだ。
私の高校のクラスメイトに、羽黒詩彩という娘がいる。モデルさん並みに長身のシア。大館の街だと、歩いているとすぐ分かるくらいだ。
この級友は、隙あれば寝ている娘で、積極的に良い意味で目立つ感じではない。
私の記憶では、先生や同級生に、寝ているのを起こされている印象だった。
それでも寝る娘は、他人より遥かに運動と勉学が出来た。
寝ぼけていても、バスケットボールでは3ポイントを連続で何本も入れてしまう。
それに、寝起きで話を聞いていても、教師の手厳しい質問を難なく答えているようだった。
ボーと生きている割に、世の中を上手に渡ることが出来る娘、ずる賢い能力が身ついている。
だから、シアについて私の印象は、当初あまり良くなかったと思う。
人見知りなのか、積極的に友達を作る娘ではないが、真逆の性格のミヒロと何故か友達だったわけだ。
そういう前置きで、長走風穴に行った日のことだ。
あの快適な冷風の前、ミヒロが猫のように溶けてしまった。
その帰りは、シアのお父さんが溶けた猫を車に乗せてくれた。
車は、さっさと走り去る。あれれ、自転車は、と私が思っていると。
ミヒロが乗って来た自転車は、この級友が回収したのだ。
当然、私は疑問を抱いた。だから、この自転車は、ミヒロのものだろう。
私の気持ちは、探偵エルフさんのレナが代弁した。
珍しく、おずおず尋ねるエルフさんは、ハイテンションの級友に圧倒されていた。
「え、羽黒さん、他人の自転車に乗って帰るのか?」
「あー、レナっこちゃん! いえーい、めっちゃぷりちーなエルフさん! そうそう、ミーちゃんとの約束だから!」
「えぇ……そうなのか。羽黒さん、気をつけて帰ってくれよ」
「うん! あ、レナっこちゃんたちは、私のことをシアちゃんって呼んでね! 羽黒さんじゃ、友達の呼び方じゃないでしょ! へばなーッ!」
「あぁ……うん、マイフレンド……シーユースーン」
他人の自転車に乗ったシア、風のように国道7号線を去って行った。
坂という傾斜の概念は、この親愛なる隣人にないのだろう。
物怖じしないレナでさえ、終始押され気味の会話だった。
それを見ていた私も、羽黒詩彩の隠された社交性を知り、面を食らっていた。レナの運転する原動付きバイクの帰路、私たちは困惑の極みで無言だった。
私からすると、ミヒロは気性が荒い。猫というより、ヤンチャな緑色の小亀だ。
ただ私たちが心配したほど、ミヒロがシアを良いように使っているわけでもないのだ。
2人で、とある約束を交わしていた。ちゃんとお互いが、win-winになるように。
その約束は、近々、私たち4人で遊ぶ機会を作るというものだった。
蟹のように、人見知りが強いシアだ。
ご察しの通り、友達が少ない。この提案かつ対価は、級友にとって魅力的だったようだ。
亀・蟹の密談に、私たちが巻き込まれた感じは否めない。
ただ私自身、羽黒詩彩のようなタイプの娘と、友人として付き合うのが初めてかもしれない。
正解がないのが、青春。その代名詞のような存在の登場に、若さゆえの青すぎる戸惑いを覚える。
後で思い返せば、お金で買えない価値がある、群青の心境に私もなっていた。【広告・PR】