【広告・PR】
腹TUEEEE! きりたんぽの謎を追え!【推理編】
朝から昼へ向かう、午前の大館ニプロハチ公ドーム前は、太陽のおかげで寒さが緩む。
まずまずの人の流れがあった。
白いドーム会場の前には、噴水池がある。
そして、柵には『きりたんぽまつり』臙脂色の幟旗が立つ。
その奥、凸凹の女子ズが立っていた。
長身の娘の方が、子供っぽくはしゃいでいる。その横で小柄の娘が冷めた目つきで見ている。
長身女子、明らかにスポーツする恰好のシアは、去年までは国民体育大会・陸上競技の強化指定選手だった。
奇行癖から協調性がないので、今はチームを離れて、自由人なのだ。
そして、謎の動きは、国体で有名な『若い力』の動きだ。
第2回石川国体で集団演技されて、それから脈々と受け継がれてきた。寒そうに首をすくめ、秋用コートのポケットに手を入れる小柄ヤンキー娘、ミヒロは辛辣な一言を吐いた。
「集団演技なのに、協調性がなさそうな、お前が一番機敏に動けるのな」
「ふふん、シアちゃんの動きがすごいって認めてくれるんだね! 未来のアイドル候補生のミーちゃん!」
「誰がアイドルになるんじゃ! あたしはロッカーになるの!」
「アイドルもロック曲やるよ~!」
「それは知っているわい! ロックの魂は売らんぞ!」
夫婦漫才が続きそうなので、私は咳払いで止めた。
シアとミヒロは、私たちに気づき、挨拶を交わす。
おずおずした感じのレナは、遠慮がちに私たちに聞いた。
「その……きりたんぽという謎のグルメを私は食べるのだろうか……」
秋田に馴染んでいる3人は、思わず吹き出してしまった。
特に、ミヒロと私は大真面目な探偵の話なのだが、笑いが堪えられなかった。
シアだけ笑わず、ギリギリ踏みとどまり、謎のカタゴト外国人になっていた。
とはいえ、この級友らしい悪ノリではある。
「きりたんぽ、怖くないデース。そこで作る。食べる。きっと好きになる。ハイ、ニッコリ~!」
あぁ、シアの言いたいことが分かってきたぞ。
私とミヒロは、笑うのを止めて、目配せした。ミヒロはシアに耳打ちして、先に右の道へ歩いていく。
レナは不安そうに見てくる。私は向こうを指さして言った。
「たんぽ汁食いて……その前に! 会場で焼いて食ば分かる! せば、あっちゃ行ぐど!」 「なるほど。参加体験型学習か!」きりたんぽ一万本焼き。350円で、きりたんぽを作る工程の1部を体験できるのだ。
私たちが口で煽るよりも良い。会場が優しくレナを導いてくれる。
ただし、探偵エルフさんは目を回している。
「なるほど、兵士は武器を自分で組み立てできて当然か」
「……」
ポンコツ探偵の推理は凄まじい。ついに、武器系の短穂?
思わず、ツッコミたかった。ただ、彼女の成長を信じて堪えた。
それは、短穂の話だ。すれ違い漫才はまだ続いていたのか。
もう私は心の中でツッコミをすることにして、会場の空気にレナの修正を任せた。
スタッフさんに、木の棒に刺さった丸い米の塊を各々もらった。
「木の棒に、半分つぶした、おにぎり?」レナの戸惑い声。
さすがに、殴り合う武器でないと気づいただろうか。
しかし、隣のシアとミヒロが、探偵のミスリードを助長した。
「半ごろし~!」
「あたし、つぶしが甘い方が好きだわな。食感重視、私の好みよな」
「ハーフ キルド ライスッッ!! は、はんごろしッッ!!」
プロレス技を見たような、扇動的な実況解説になっている。
それだけ、レナには刺激的な方言だ。
米粒を半分つぶしているので、半ごろし。
米のつぶれ具合で、触感や汁の染み方が変わってくる。
探偵エルフさんは、おっかなびっくり、調理用手袋をはめた手で、棒に米を伸ばしている。
さて、凸凹コンビは次の工程に移る。ゴロゴロと机の上で転がして、きりたんぽの形を整える。
「ころがす~、ととのってきました~」
「あ、破けたところをごまかしていいか?」
「いいの~、いいの~。やればできる~、なせばなる~」
「ま、ゴロゴロっと」
「半ごろし、伸ばして、ゴロゴロでリカバリーしたつもりなのかッッッ!!!?」
ポンコツ探偵、壮大な事件が発生している言い分だな。
目の前のスタッフさんが苦笑いしているぞ。
そうこうしているうちに、ミヒロ・シアは次の工程へ移っている。七輪で、たんぽの表面を乾かす。
「醍醐味~。表面をさっとね~」
「七輪に先がくっつきそうなのだが! 倒れる! 熱っつ!」
「半ごろし、伸ばして、ゴロゴロ、表面をあぶられた……」
レナのささやき。
その解説の通りの工程ではあるけど、聞いた人がミスリードしそうな表現だ。
深刻そうな顔のままだから、また笑いを堪えないといけない。
ミスリードをばらまく、2人は次の工程へ移っている。
網の上、きりたんぽに焼き目をつける。
「おこげ~、私好き~」
「おい、なかなか焦げねぇぞ」
「水蒸気が出てくるはず!」
「ふーん、合図があるんだな」
「半ごろし、伸ばして、ゴロゴロ、表面をあぶって、焦がす」
レナは白目になりながら、きりたんぽを焼いている。
イギリス産エルフ娘には刺激が強すぎたようだ。いや、1人ミスリードを深めすぎているだけだ。
香ばしく焼けたきりたんぽに、スタッフさんから味噌を塗ってもらい、きりたんぽは完成した。
私たち3人は、美味そうな匂いに、たまらず噛り付いた。
探偵エルフさん1人が目をつむり、恐る恐る口に運ぶ。
「……うまい」
レナは、きりたんぽと和解できたようだ。
【広告・PR】