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腹TUEEEE! きりたんぽの謎を追え!【解決編】
しかし、私の腹は満たされない。
空腹ヘヅネ界。
会場の中に入ると、ちょうどローカルヒーローショーだった。
シアは相変わらず、コウライザーたちにお熱で食い入るように応援タイムだ。
その横の椅子に、放心した顔のレナが座っている。
その隙をついて私とミヒロは、きりたんぽ汁を買うために、店の行列へ並ぶ。私の顔がよほど不機嫌そうに見えたのだろう。
渋い顔のミヒロは、助言として口を開いた。
普段なら嫌味でしかないのだけど、雰囲気のせいで励まされたように感じた。
「ソナ、お前は腹つえって笑顔になっていない。その仏頂面、すげぇブサイクで終わっている」「なんだッ、腹つえぐなってねッ! むしろ、機嫌悪いくらい腹減ってら」
「それそれ。あたしには、素直に言えるのになぁ。そういうところ、ごうじょっぱりちゃん」
「え、えふりこぎに見えでらのが?」
「あたしにゃ、その謙虚は、やせ我慢になって見えるな」「レナのためだって、ちょっと気張りすぎたかもしんねぇ」
ミヒロは見ていないようで、しっかり周りが見えている。
ついでに、嫌われる言葉も気にせず話す。
それが出来るのは、聞き手との距離感が分かっている。
今の私を信じているからだ。
私も含めて、秋田の人は、謙遜しすぎる。おなかが減って食べていないのに食べた振りをして、他人からの施しを受けない気の強い人もいる。
方言の『腹つえ』別の意味は、『他者の施しを拒否するため、我慢をする謙虚さ』だ。 ちなみに『じょっぱり』は津軽弁で『強情を張る』ことや『頑固者』の意味である。 大館では崩れた言い方で『ごうじょっぱり』と方言を使うことがある。そして秋田弁の『えふりこぎ』は『気取る』ことだ。
自分の過剰な謙虚さは、相手にはやせ我慢に見える上に、気取っても見えるのだ。 我慢だけは良くない。現代人なら、基本そうである。
ただし秋田県民性と、津軽地方の周辺である大館市民の地方民意識という、二重環境要因がある。 冬の季節を1つ越える程度ではあるけど、我慢強さが現代の私たちにも残っているのかもしれない。食事スペースがちょうど空いた。
きりたんぽ汁を、ミヒロは5杯買っていた。
あれ、1杯多いよね。
4人分じゃないのか。
ヒーローショー後から合流した2人には、各々1杯分ずつ。
ミヒロの分も1杯だ。
残りの2杯分、私にくれたのだ。
敵ではないが、旧友の施しだ。
さすがに動揺する。
「食っていいんだが?」 「マテを食らった秋田犬みたいな顔されたら、おごりたくなった。せめて、美味そうに食え」 ミヒロの義侠心に感謝。私はありがとう、と頭を下げた。
ハフハフと吐息が漏れる。
熱い汁が染み渡る、温かいきりたんぽは奥まで美味い。
まいたけ、比内地鶏の肉と出汁は、グイグイと旨味を主張する。ネギ、せり、シャキッとした触感、そして薬味としての香り、いい感じに味がまとまり決まった。
これこそ、チームきりたんぽ、なのだ。
最後の汁の1滴まで、飲み干したい。
それが、最高のきりたんぽ汁へ私なりの礼儀である。
「はは、2杯じゃ足りねぇってか。もう1杯食えよ。ただ本当に、腹つえぐなっても知らないぞ」
「って、ことで私たちは、会場ぶらり旅してくるね。ゆっくり食べてね」
いつの間にか買ってきていた1杯のきりたんぽ汁を置いて、凸凹コンビは旅立った。
集中していた私は、高い山に挑むクライマーのような高まる思いで、きりたんぽ汁を真剣に食べていたのだ。
きりたんぽまつり、しっかりと並んで、しっかり食べきるのも、美しき戦いである。
うん?
さっきまで、慣れない環境に戸惑っていたレナの目が輝いている。 探偵エルフさんは、微笑んだ。少し張りつめていた気持ちが楽になったようだ。
「私は『腹つえ』という言葉が分からない。でも、ソナタ君の食べっぷりを見ていて、気分が良くなってきたよ」
「1本ける」
「えっと、もらっていいのかい?」
「腹つえぐなった」
私は突然、えふりこぎモードになった。
本当はあげたくなかった。
強いて理由を言うなら、レナが元気になるのは、私にとって嬉しいことだから。ただ、ここは祭り会場なのだ。
今更ながら、他人の目が気になってきた。
腹つえ、が本来の意味でないのは、まだ満たされない腹具合なので私自身がとてもよく分かっている。
ただ別意味の腹つえのように、自分の意地を張るために、他人であるミヒロの施しを完全に拒否した訳でもない。
すごく中途半端な行動だ。
へりくだって、腹が減って、顔がブサイクだと、ミヒロに言われたのに。
つい、反射的に口が開いたのだ。
さらに、私は口が滑ってしまった。どちらかというと、本音がポロリと口から出た。
「はぁ。今度、2人だけでご飯食べに行ぎてぇなぁ」
「可愛い顔がマイハートに刺さる」 意味不明なポンコツ発言の後、私から目を逸らした。顔を真っ赤にして、レナは震えていた。
私の食べている顔が、刺さるほど可愛とはどういうことか。もしかしたら真っ当な意見で、客観性を欠いた私の理解不足かもしれない。
いまだに私とレナは、分岐点からどちらへ進むか決められない。
今日のところ、すれ違いの漫才のまま、きりたんぽまつりを終えた。
そうそう。
腹つえは、ここからが本番なのだ。
腹TUEEEE!と、無双状態の主人公になるのは帰宅後、お腹の中できりたんぽが膨れ始めるからである。お腹が苦しい。
ぽんぽん痛い。
でも、美味いもの。
今秋、実りを受ける1人として、私は食わずにはいられないのだ。
私の方言辞書には、腹つえは本来の意味しかないようだ。
他人がくれた食べ物は全部食べる、それが私らしさだろう。
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