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しずかな湖畔 やさしい告白の謎を追え!【解決編】
今、曇り空だ。
太陽から光が届かない。秋風が少しだけ吹く。
私たちには、外の寒さがわずかにあった。
座っていない丸太椅子にお昼ご飯たちを置く。
自宅から持ってきた曲げわっぱのお弁当箱の中は、ラップおにぎりが2つ、まだ温かい。
買い物袋の中から、アグリコッペさんの大きなパンが3つ。
魔法瓶の中には、温かいお茶だ。
お昼ごはんを2人きりで静かに食べられる。
珍しく世界は、静かに私たちを見てくれている気がする。
私たちが丸太の椅子に座っている東屋は、とてもユニークなきのこ傘をしていた。
木々は黄色と赤に紅葉している。
黄緑の芝生は短めで広い、おそらくキャンプ地かドックランか、どちらかだろう。
フェンスの向こうに、わずかにダム湖が見えた。
五色湖運動公園は、そして携帯電話も圏外になるくらい、静かな場所だったのだ。「こんなに静かだと、心の底まで見えてしまいそうだ」
「レナ、比喩だが?」
「そうだ。例え話……いただきます」
「いただきます」
おにぎりが2つ、今日は1人で独占せずに、1人が1個ずつだ。
春、腹を空かせすぎたレナが2つとも食べた。
秋のきりたんぽまつりでは、人目が気になった私は、お腹が全然満ちた気がしなかったけど、レナにまたご飯を譲った。
もし心の底まで見えるなら、レナと私はこんなに行動がすれ違うのだろうか。
いや、心が見えたとしても、お互いの行動がすれ違っていただろう。
ラップを剥き、おにぎりに噛り付く。
「もし仮によ、心の底まで見えるんだば、私とレナは喧嘩してねぇし、相手のことで悩んでねぇ。人様が時間かけねばねどこ、ただ乗り越えでだべな」
「そういう失敗や羞恥に、私たちは時間をかけていく方がいいのかな。乗り越えるのが正しいのか。それとも……」
「レナ、言いてぇことがあるんだべ。2人きりだ。言うなら、今じゃねがな?」おにぎり1個も喉を通らない。
まだ1口噛りかけ。
私の目前、レナは1人で張りつめている。
だから、私はアグリコッペさんの総菜パンを、欲望のまま大口で喰らいついた。
誰に遠慮する必要があるのか。しずかな湖畔で2人きりだ。
それでも、無表情を装うレナの耳が震えていた。
私はお茶を1杯カップに汲んで、レナに渡した。
「あ、あり、がと」
「……」
お茶を受け取るレナの口が上手く回っていない。
でも、違う。これ以上、私は答えを誘導できない。
大潟村のときのレナほど上手く話せない。
私、探偵役は苦手だ。だから、無言で待つことを選んだ。
お茶を啜ったレナは、ゆっくり息を吐きだした。
さて、本題に入ろう。
「ソナタ君、あの日もらった愛の告白を返したい」
「うん」
私の心臓は飛び跳ねた。確かに何度か告白はしているはずだ。
石田ローズガーデン? 祭日の秋田犬の里? きりたんぽまつり?
その都度、レナはためらいにためらった、今日になって答えがようやく出る。
感情を殺した話し方が、お互いにわざとらしい。
この期に及んで、よそよそしさ。
それが、私の口からも出ていた。
レナは話し続ける。恋の判決理由を述べられているようだ。
「もう好き嫌いの単純な考えではなくなった。むしろ嫌われないように私が今から自衛をかけたい」
「うん」
「私、レナ=ホームズは、エルフ種特有の『読心術』が全く使えない。他人とのコミュニケーションを取るのが非常に苦手だ。だから、姉のシドニーにべったりくっついて、1人前のエルフであるかのようなフリをしてきた」「……うん」
「でも、1人のエルフとして、姉なしでは日常生活もできない。全く自立していなかったんだ」
「そっか」
そうか。
私は気づいた。持ち合わせた情報同士が繋がったのだ。
姉のシドニーが、妹を旅に出した理由は、ドームの提案だけを飲んだのではない。
レナの自立に必要な能力を補うためだ。
1人旅に出れば、あらゆる危険を避けるために、他人とのコミュニケーションを取らざるを得ない。
結果、レナは自発的に成長する。
彼女は、旅の間に変わろうと、出来ないことを直向きに挑戦してきたのだ。
他人と触れ合う恐怖、難しいと心で嘆く距離感、失敗に失敗を重ねて、何度も事件を越えていた。
春の出会いの日に、私が感じた彼女の余裕は、大変な日々の経験値が積もる本物だった。
「今は……どうなんだろう……少しは成長できたのだろうか……」
「自分の弱さを他人さ口に出来でらがら、根が優しっけレナはもう心配ねぇ」「それは、どういうことだい? 普通の人は、自分の弱さや嫌なところをわざわざ恋人に言うのかい?」
「あなたはあなただから良いんだ。多様性の始まりだば、互いの存在を認めあうことだもんだ」
既存の価値観を私たちは今から変えようとしている。
大潟村ではレナだけ、私らしさを肯定した。
今後は私の番。エルフを除いてもレナがレナらしくあるように、私は彼女を肯定する。
こうだったら、ああだったら、と。
不安と恐怖、怒り、悲しみ、あらゆる感情が押し寄せてきたのだろう。
そのレナが思っていた、IFは私の価値観でない。なぜなら、私が彼女の存在を前向きに認めているからだ。
「私を認めてくれるのかい」
「探偵エルフさんのレナも、半人前エルフのレナも、おめだべ」
「うれしい。やさしいな、君……はぎゃッ!!」
レナの両肩の力が抜けて、腰からお尻の力も同時に抜けた。
そのおかげで、丸太椅子から彼女はずっこけた。
無意識の天然行動は、レナの属性だろう。
当然、私は大爆笑した。また当然、レナは怒った。
転んだままではいられないので、レナの手を取り、私は引き上げた。
ややあって。
お互いの感情が収まるころ、レナはまた口を開いた。
「春と秋で、私たちの立場が変わっていたのだな」
「レナの探偵ポジション、私さだば荷が重ぇなぁ~」
「じゃあ、探偵エルフさん稼業を復活しようか」
「んだば、私も助手さ戻るな」
「よろしく」
「よろすぐ」
手と手を握り合う。愛情と信頼は、この握手で確かめ合った。
私たちは、自然と笑い合う。
そして、フェンスの向こうのダム湖を、立ったまま2人で仲良く手をつなぎ、眺めた。
気まぐれな秋の雲が去り出し、太陽が少しずつ光を注ぐ。
今日の五色湖は、秋風が吹くので、鏡のように山や木々を映さない。それでも、湖面で太陽の光が踊っていた。
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