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紅に変わり行く景色の謎を追え!【解決編】
冬が迫るときに、天気良い秋であるのが珍しい。
だから今日はラッキーすぎる日なのだ。
少し前に、ミヒロが「ソナは、花より団子だろう」と真顔で言ったことがあった。
悔しいが、それは正解だ。
紅葉狩りが行楽である意味を、屋外で食べる弁当の美味さで、私は実感している。
マカロニサラダ、肉団子、フライ、から揚げ、卵焼き、たくあん、そして味のついたご飯。
秋田っぽい見た目ながら、味がしっかり洋風である。
『きみ恋カフェ』さんの店内BGMは、昭和レトロ感ある、おしゃれなカフェ音楽だった。
今度はゆっくり店内で食事にしたい。
昭和を少しかじって生きてきたレナが、彼女にしか分からない表現で、味の感想を口にする。
食事に夢中の私に代わり、ミヒロが口達者に返事してくれた。
「なつかしいカフェの味がする。本当に昭和の思い出深い味わいだ」
「平成半ば生まれのあたしに言われてもな」
「昭和って言っても、本当に子どもの頃のあいまいな記憶だぞ。君らの4分の1の成長スピードだ。例えるなら、君たちが学童になる前の頃の記憶はあるかい?」
「あぁ、そういうことかい。まぁ当然、覚えてないな……」
ミヒロは、小学校の頃に両親を亡くしている。
それで、ちょっと濁った返事になっている。
レナはあまりその辺をよく分かっていない。
助け舟。私が別の質問を仕掛けて、話を変えることにした。
能代市二ツ井のことに、私はすごく疎い。ちょうど、また新たな疑問が出てきたのだ。もりもりと、ごはんを食べながら2人に尋ねた。
「ドームがさきたがら、七座山ど屏風岩を見で、パワースポットだ~って言ってるばって、なんたすげぇ神様がここさはいるのだが?」「天神様だよ」
「お天道様なのが。ん、あの七座山の話っこだすべが?」
「そうそう。この二ツ井にも三湖伝説があって、八郎太郎と天神様の逸話がある」
「んだのが。レナはいつ調べだんだ?」
「それは朝の眠気覚ましで、ちょっと【二ツ井 伝説】検索をね……」
“十和田湖をめぐる争いで、南祖坊に敗れた。 その竜人の八郎太郎は、米代川を下り、二ツ井の地で休んでいた。勝手に米代川の水をせき止めて、住処にしてしまったので、この地の神々は相談しに集まるほど迷惑していた。
神々の決定で、天神様に事態の収拾を一任した。
八郎太郎と天神様は、米代川で岩投げの力比べをした。本日でも、八郎太郎が投げた岩が川の中に見えるようだ。
さて、天神様の圧倒的な力に、さすがの八郎太郎も負けを認めざるを得なかった。
『ここから移動するのは良い。ただ底が浅くて、川の流れで下れないのだ』
龍の姿になって、川下りするという発想は面白い。
もしかしたら、天神様たちへ難題を吹きかけて、無理ならこの地にまた居座ろうとしたのかもしれない。
しかし、天神様たちの機転で、神の使いである白い鼠たちを大量に集め、当時は八座山だった一角を削った。
水が通ると、川に流れができるのだ。
八郎太郎は、その濁流で男鹿方面へ流れて行くことになる。 向こうには、八郎湖が出来る。今の大潟村にあった湖である。一方、その工事に驚いたのが、この辺りに住む猫たちであった。
ここでも、猫の住処に大量の鼠は天敵である。集まった鼠たちを駆除しようと狩り出したのだ。
天神様らは驚き、猫たちにその地へ留まるようにお願いした。
『生涯、身体にノミがつかないようにする。だから、鼠を見逃してくれないか』
猫たちは了承し、その場に繋ぎ止められた。その地の名前が、『猫繋』である。 今では『ね』の字が取れて、『小繋』という地名が残っている。小繋は、道の駅ふたつい周辺の地名だ。“へぇ。私は感心した。
現在と一部リンクすることあるから、それも郷土の昔話として面白いものだ。
レナの逸話に、正直に思ったことを私は口にした。
「天神様たちの努力をさ、ドームが勝手にもらって良いんだがなぁ」
「ドームがどりょくしていることがあればもんだいない」
「ひらがな感がすげぇぞ。えらい棒読みだ」
「それより、ソナタ君は神様にお願いごとはあるかい?」
「今の幸せな気持ちがこれからも続いてほしい」
「ふふ、真っ当な願いだ」
私は美味しいごはんを食べた後の気持ちよさのことを口にした。
レナは、優しく微笑んだ。たぶん、違うことを考えている笑顔をしている。その間抜けた顔が、今の私には心地よい。
すると、沈黙から帰ってきたミヒロが喚いた。
「他人の幸せは胸やけする! あたしの願い事も、天神様と、シア様に誓ったんで、レナっことソナは応える義務がある!」
「ん~、何の話だ」
「二人で仲良く『きみまちの鐘』を鳴らしてください。それを写真撮って、シアに送る。あたしの役目、OK?」
「む~、朝がらの悪だくみが分がった。最初からそう言え。」
「ありがとうの『あ』は、秋田県民の『あ』!」
ミヒロは素直でないお礼を口にした。私たちの腹は満ちて、食後に牛にならないように立ち上がった。
何となく、ドームとミヒロの悪だくらみの全体が私にも見えた。
それなら、レナと私は堂々と手をつないで、笑顔で奴らの写真に納まれば良かったのだ。
『きみまちの鐘』に、私たちは2人で手をかける。ミヒロとドームが、それぞれにスマートフォンを向ける。
カメラ音をかき消すようなくらい、荘厳な音が鳴った。
結婚式レベルだ。すごく恥ずかしくて、すぐに私たちは赤面した。
その写真が、級友のシアに送られるのは構わない。
ドームを介して、レナの姉、シドニーへも写真が送られるのだった。
おそらく今後、レナ姉のシドニーと私たちは、ややこしい話になる可能性がある。
まぁ、その時はその時だな。
今は諦めた。私は薄い笑みをもらした。
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