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うっかり除雪のち温泉パラダイスの謎を追え!【事件編】
ハロウィンのおどろおどろしい音楽が消え、街にクリスマスソングが溢れて来た。
東北地方の秋は、関東地方より早く終わってしまう。何だか、損をした気分だ。
それどころか、心身の負担が倍になる案件がやってくる。
雪が降り始めたのだ。どうやら、冬が始まったようだ。私は表情を硬くして、空を見上げた。
いつの間にか、気まぐれな黒い雲が広がっていた。肌を刺す寒さは、もう白い雪が降るには十分だ。
北海道、東北地方や北陸地方は、冬の日照時間が少ない。
とどのつまり、雲がかかりやすく、暗い冬が長い。それは当然、雪の降る時期も重なっている。
秋田県の積雪量だが、青森県の酸ヶ湯や新潟県と比べて、それほどでもないかもしれない。それでも、秋田県南は、毎年雪が多いような気がする。
私の住む秋田県北の大館市は可愛いものだろうか。ここで近年の心配なニュースだ。
気象予報士さんがTV番組で言うように、近年は雪が降りやすい気象条件なのだ。
地球温暖化による海水温上昇は、我々、日本海方面の住民に、大打撃を与える時代と言える。
それは、何故か。
雪が降るまでを脳内シミュレーションしてみる。
海水が蒸発→上昇気流で上空の寒気に合流→偏西風が日本列島へその寒気を流す→平地や山で積雪。
寒くないと雨、寒いと雪。
海水温が高いと、蒸発する水分も多い。上空で大量の水分が、帯状の雲になる。結局、半永久的に雨や雪を陸へ振り下ろす。
このせいで、最近の冬は、豪雪になるのだ。
雪国にいる私の主観だけど。
美しい雪の結晶も、2~3日も経てば景色に飽きる。視界的に、精神的に、閉鎖的な雪一色の世界が続くわけだ。
除雪、交通障害、気落ちなど、冬特有の問題が出てくるのだ。ただただ毎日、雪は人間の生活を脅かす怪物になる。
長い冬、雪という怪物とのダンスは、今季いつまで踊るんだろうか。
悶々とした日々が始まる予感、すでに私は鬱々としてきた。
我が家の居候、探偵エルフの少女、レナ=ホームズにとって、秋田での冬は2度目だ。
阿仁で冬を越した際はお客さん状態だったらしいから、彼女が真っ当に雪へ立ち向かうのは初かもしれない。雪国生まれの私は、マイナス面以外の冬の良さを、彼女へ伝えることが出来るだろうか。
冷静な判断力が除雪の日々で鈍って、「こいつはうっかりだ」と私の口が滑らないように、今年の冬は気をつけたい。
あわよくば、冬の楽園を見つけて、楽しい期間にしたいものだ。師走のある日。家の外は白銀世界だった。
木々も、岩も、地面も、目の前の全ての景色、雪が積もっていた。
ただし、日本暮らしも長くなっているレナには見慣れた光景のようだ。
私は無言で、スノーダンプの持ち手パイプを、彼女に押し付けた。
レナの表情が強張る。
「あのー、居候もやる必要ありますかー」
「私はゴマをすられても、家さいれとは言わねぇど」
私は無表情で、レナに答えた。
雪国は問答無用だ。行動あるのみ。
お代官様ほどでは、のゴマすり手をレナは止めた。
ようやく諦めて、スノーダンプを受け取った。
「何だか、手首が疲れるよな」
「それだば足腰さ、力入れてねがらだ。手でやろうどすっと、上辺の雪しか寄せられねど」
ややあって、レナが口を開いた。
除雪がある程度、片付いたところだ。
まだ今、雪の量は、季節はじめで大した量でない。
盛んな降雪期では、スノーダンプの限界値を突破して、除雪場から掘り起こす必要がある時もある。
そうなのだが、どんな時も雪への注意はある。
足腰の重心をしっかりしていないと、バランスを崩す上に、酷い怪我や痛みを負うことになる。
武道にも通ずることと、幼い私は、父から聞いた。
雪をなめていると、大変な目に遭う。雪に足を取られて、すっ転んで大怪我。唇の上を何針も縫うことになる。
過去の痛み……。苦い経験値が、今の私にはある。
現在にいるレナは、高校生になった私の無表情を察した。
「かつての冬に何があったか知らないが、面構えが違うな」
「歩き方は、腰を落とせ、足裏全体で小刻みだ。もし転ぶときは、尻から行け」
「秋田弁を忘れたソナタ君は本気の奴か」
「頭上のつららや雪の塊、見えない側溝、動いている除雪機や車には注意だ。参考にしてけれ。へばな!」
雪をナメるな。
私の中にいる、超神ネイガーさんが表面へ出て来たようだ。
YouTube公式で、ネイガーの動画を以前に見ていたので、レナは自然と空気を読んだようだ。
きょとんともせず、おぉ~と拍手で応える。
度々登場する超神ネイガーとは、秋田県のローカルヒーローだ。悪りぃ子はいねぇがー。ただし、良い子には優しい。
それに、水木一郎さんが主題歌を歌っている。そして毎年、ネイガーは、秋田県内で田植えも稲刈りもする。本当に活動もローカルなのだ。
「秋田のローカルヒーローが言うならば、雪の備えもちゃんとしないとな」
「私が言ったんだけどなー」
妙なテンションになった私に付き合えるのは、レナの稀有な才能だと思う。
ただ、レナに悪ノリされると、急速に冷めてしまうのが私の欠点だろう。
レナはアヒル口で拗ねた。ノリが悪くてごめんだけど!
「で、除雪の対価は何なのさ?」
「はい?」
「一生懸命に汗をかいて雪を寄せた。だから対価がある。イギリス人は、その対価を知りたい」
「片言のように聞けで、んでねえ気がすんなぁ……」
レナは大真面目に、除雪に対価があると思っていたようだ。
毎日、除雪することになるので、ご褒美をあげる程でもない日常事だと私は思うのだ。
レナの目から光が消えた。秋田の冬は、イギリス産エルフ娘に洗礼を浴びせた。
東方正教会の洗礼祭では、氷を割ってから、湖に入ることもある。
その目を見る限り、カトリックか、プロテスタントか、のどちらかではあるが、正教会の教徒ではないようだ。
返事は、棒読み。感情なくレナは、私の疑問に答えてくれた。
「イングランド国教会は、あらゆる人種、性別、文化的背景の人々を歓迎しています。教会のイベントは、どんな方もウェルカムですよ。メリークリスマス」
「まんつ、教会によるべなー」
高校生活は、冬休みに入っている。
今日が12月23日と、私は知っている。
そう言えば、意識的に忘れていたけど、もうすぐクリスマスだったか。
レナは、心安らかに、温かいクリスマスを過ごしたかったのかもしれない。
何だか悪いことを告げてしまった。私の心も沈んで来たようだ。
様子を見ていた父、、光春がサンタの代わりにやって来た。辛気臭い空気をぶち壊すくらい、笑顔満点の父であった。
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