秋田へようこそ探偵エルフさん13-2

秋田へようこそ、探偵エルフさん!//
  1. ホーム
  2. 秋田へようこそ、探偵エルフさん!
  3. 秋田へようこそ探偵エルフさん13-2

【広告・PR】

うっかり除雪のち温泉パラダイスの謎を追え!【推理編】

前回・・・秋田へようこそ探偵エルフさん13-1

バンダナ強面おじさんこと、柳光春ヤナギミツハルは私の父だ。

 怖い顔とは対照的に、やや砕けた秋田弁と、無駄な雑学を軽快に話す。

 謎のおじさん隠者である。冗談だ。秋田県の木工職人である。

 そのため、初見の頃からレナは、父を信用していた。

 落ち込んでいるレナに、ためらうことなく話す父。

 ガードが堅い娘の私より、父の雑学は、知識欲に飢えたレナに効果抜群だ。

「レーちゃん。陰陽だばな、両方が釣り合っで、人間のバランスが取れるんだ。闇があるから光があるど、小林多喜二コバヤシタキジは言ったそうだ。んだばってな、俺んどは元々、光を知ってるがら、闇から抜けだときに、より眩しく感じるべ。まんつ、どっちも人さ必要だ」

「プロレタリア文学。小林多喜二。蟹工船の作者ですか。その、ミツハルさんの解釈では、闇と光は対になっているということですか?」

「んだんだ。冬は光も温かさも、根っがら足りねえんだ。そいだば足りねえ分を自分で補えば、おめの言った、冬の対価になるべな」

小林多喜二こばやしたきじ氏は、秋田県大館市おおだてし下川沿しもかわぞいに生まれだ。

 つまり私たちの、郷土の偉人である。

 激動の大正~昭和初期に、プロレタリア文学の作者として名を遺した。

 その小林氏の名言がある。

「闇があるから光がある。そして闇から出てきた人こそ、一番ほんとうに光の有難さが分かるんだ」

 父の話はその引用で、独自の解釈がある。

 闇は光、光は闇。陰陽が釣り合っている。

 それぞれが存在しているので、世の中になるというのが、父の考えだ。

 寒いなら、暖をとる。暗いなら、光を点ける。今できる日常的な対処をする。

 そうすれば、光と闇に例えた自分の欲求が、それぞれ天秤で釣り合うのだ。

 結論、レナの欲を満たすのは、冬の温活だろう。

「ミツハルさん。では、質問を変えますよ。こんな寒くて過酷な労働に、何を補うんですか?」

「ソナが今朝、『冬の楽園だー』って、寝ぼけて言った。冬はいずれ終わるんだがら楽しめだば俺も賛成だ」

「労働の後に、アクティビティですか?」

「バナナボート」

「たけや製パンですか? 通年で食べられ……」

「んでね。スノーモービルさ、人がライドオンしたバナナの乗り物を引いてもらう」

「おう、えきさいてぃんぐれじゃー。とっても、はやいでーす」

 レナが棒読みになった。

 流石に探偵エルフさんも、驚きの向こう側に行ったか。

 私の心中は複雑だ。寝言の件は置いておいても。

 除雪の後に、アクティビティをやるだろうか。うーん。やる人いるかも、楽しそうだから。

 父の考えは、たまに娘の私でさえ狂気的に感じる。

 木工職人ゆえ、独創的だ。

 食べる方のバナナボートは、たけや製パンという秋田のパン屋さんのなじみの商品だ。

 ごろっとバナナが、スポンジ生地とホイップクリームに包まれた、美味いやつである。

 レナは、この菓子パンを食べ過ぎて太った。

 父は冬の雪上レジャー。

 近場で体験できるものとして、バナナボートを例に挙げた。

 人が乗ったバナナを引き、馬力あるスノーモービルが雪中を高速で駆ける。

 これはこれで、私は楽しそうだと思った。

 雪も舞い上がるし、人のテンション爆上げだし、体温も上がってポッカポカだし。

 バランス運動の苦手なレナには、ただ振り落されないように、恐怖で必死になるように思えたようだ。

 

 父は方向性を替えた。

 テンションをあげて温まるより、実質的に温まる方だ。

 これにもレナは、苦笑いをしただけだった。

「サウナは良いぞ~。温まってから、雪にダイブ。冬しか出来ねぇど~」

「ふむ。フィンランド人がエンジョイしてそうですね」

「秋田の者どももエンジョイしてらぞ」

「はは。そうですか」

 レナのお愛想が辛辣すぎる。無茶苦茶、他人行儀なリアクションだ。

北秋田市の北欧の杜ほくおうのもり公園では、バナナにも乗れるし、フィンランド式サウナにも入れる。

 まさに冬の温活パラダイスだ。

 そのサウナは秋田県内に利用できる場所が増えている。

十和田湖とわだこ田沢湖たざわこ、それに白神山地しらかみさんちの麓でも流行っているそうだ。

 秋田の冬は、本場の北欧と同じように楽しい、と私は思う。

 だが、ものぐさレナが楽しまなければ、冬の楽園の意味がない。

 さて、ニコニコ顔の父が気づく前に、私は咳払いして、家に入ることを提案した。

 その最中で、作戦を練り直そう。

「ほら、レナ。まずさ入って、汗ふいて着替えるっぞ」

「確かに、汗で肌がかゆいような……」

「女子だば肌繊細なんだど!」

 私が演技で睨むと、父は少し驚いた顔をした。

 その後で、冗談だ~と笑ってみせると、父も安心したようで笑い返してきた。

 相当疲れたようだ。レナの着替えは、青虫の動き並みにスローだった。

 私は一足先に着替え終わって、その様子を見ていた。

 白い肌は汗で少し赤くかぶれている。虚弱なエルフのレナをこのまま放っておけない。

「服を替えたが、ゴワゴワ感が強い。シャワーを浴びて来ていいかい」

「んだば、給湯器の温度を上げてから……、あッ!」

 レナの提案、それを上回る案が閃いた。

 私はすぐにある人物へ電話をし、父に理由を説明し、車を出すようにお願いした。

 また寒い外に出る羽目になったレナは、不思議そうに私の顔を見た。

「なぁ、ソナタ君。私たちはこれから、どこに行くんだい?」

さ」

 秋田弁のショート会話では、「どさ」「ゆさ」と言われる現象だ。

「どこに行くの?」「温泉に行く!」である。

 秋田の冬の温泉は、雪景色が映える。当然、冷えた身体が温まれば、気分も最高になる。

 地元民は日帰りで、入浴を楽しみにする人もいるくらいだ。

 もちろん県外の方々も、わざわざ雪深い秋田まで、温泉のために通ってくださるくらいだ。

 ちょうど都合の良い展開。最上級の温活である温泉へ。

旧友の祖父が、雪沢ゆきさわで温泉をやっている。

 レナは、冬の対価の答えが分かり、助手席にさっさと飛び乗った。

 楽しそうな彼女の目を見て、私も楽しみだと思う。

 その代わりに、私のわがままな行動を、心の中の私が咎める。

 後部席に乗った私は、バックミラー越しに父と目が合う。

 申し訳なさそうな私の目を見て、父は少しため息をついた。

 忘れていたクリスマスよりも、私にとって大事な日が12月23日なのだ。

 本日、父の誕生日。

 なので私は、父に迷惑をかけたくなかった。

 車のエンジンがかかり、雪道を走っていく。

私たちの目的地は、雪沢ゆきさわ温泉である。

【広告・PR】

【つづく】

秋田へようこそ探偵エルフさん13-3

【関連ブログ】

\シェアボタンです/