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アイスブレイク秋田オンラインの謎を追え!【事件編】
文字通り、雪解けの季節がやってきた。
北日本にある秋田県大館市、私たちの住む町だ。この北国にうんざりするほど降った雪は、今ほとんどなくなっていた。
3月に入ってから、絶妙なマイナス気温と雪の降る日は少ない。
しとしと降る雨や温暖な晴れの日が続いたからだと思う。
最近、地元でも散歩できる道になってきた。
行き交う車が起こす砂煙。生っぽい土の匂い。排水溝の臭い。
ふと視線を足下へ。雪が解けた後には、緑を戻しかけている葉っぱが目に付くようになってきた。
ふきのとうをはじめ、新芽も見える。
もう一度言いたい。長い冬は終わったのだ。
さて、春分の日の前話になる。
高校生の私たちは苦手科目を何とか助け合い、無事に高校2年生へ進級が決まっていた。
後は高校1年生としての消化試合だ。
春になったら運動をすると宣言していたレナは、少しずつフィールドワークを再開していた。
去年行けなかったところに、私と2人でどこから行こうか、という話にもなっていた。
そう言われると、冬から運動しなかったことを怒る気にも私はなれない。
平和な毎日は続かないのがお約束。探偵エルフさん自体が事件の引き寄せをしている。
ニコニコ笑いながら話していたエルフさんの表情が、iPhoneにかかってきたとある人からの電話で、一瞬にして固くなった。
エルフさんの天敵、そして私の縁戚である、女子大生のドームからの電話だったようだ。
歯切れがいいエルフさんのえふりこぎ話も、ドームの前では未だにたじたじになっている。
えぇ、うん、ああ、そう。
本当にそこまで嫌わなくても良くないかな、と私は思う。
でも、私はレナ=ホームズ本人ではないので、当事者同士が解決したければすればいい。
……え、ドームが私に電話を替われって? エルフさんのように、助手の私もおずおずと電話に出る。
予想外なことに、知らない女の人の声だった。
「いつも妹がお世話になっています」
「……はい、お世話様です。その妹さんはレナさんのことで間違いないでしょうか」
「ふふふ。いつも方言で話す娘と聞いていたけど、ソナタさん、はじめまして。私はレナの姉のシドニー=ホームズです」
「お姉さん!!」
私は驚きのあまり、つい声を大きくしてしまった。
隣に座っていたレナが、ぽよんと驚き飛び上がった。
白々しい反応だ。少し睨むような、少し困ったような。
そんな複雑な顔でレナを見つつ、「すみません。驚いて声を大きくしました」とだけ話した。
ふふふ、の笑いがデフォルトなのだろう。
シドニーはそんなことを気にしていなかった。
いやぁ、別のことを気にしているようだ。根に持っているに近い声の圧を感じた。
うーん、恨みというのは正確な感情表現ではない。向こうの感情が読み取れない。
私の困った感情メーターが上がる。
困った。困った。
「ソナタさんは、私の妹とお付き合いしていますよね?」
「……う……はい、間違いないです」
「ぜひ今度、弘前でお会いしましょう」「……えぇ、もちろんです」
「その前に、私のレナを奪うに値する女性かしら?」
「はい?」
レナが姉シドニーに依存していた過去は知っている。
ただ、シドニーが妹レナに依存していたとは、私は誰からも聞いていない。
あの自我欲の化身ドームが上手く、同居しているらしいシドニーに話しているとは思えない。
とりあえず、心臓が跳ね続ける。
私の感想は、大きな間違いを起こしかけているという焦りが一番だ。
そして、ぐいぐい迫るように話すシドニーが苦手だ。
レナが少し冷静さを戻したらしい。
電話を水平に手で持つようにジェスチャーをした。
とんでもない姉妹喧嘩になるかもしれない。
不安な目線で合図した後、私は電話を水平に手で持った。
それでも、レナは比較的落ち着いた話し方だった。
「ソナタくんが困惑しているので、私も会話に参加します」
「あら、ごめんなさいね。お姉ちゃん、困らせるつもりはなかったわ」
「ソナタくんはお姉ちゃんの思うような悪い人ではないです」
「そうかしら? むしろ自分の欲望に素直な人の方が、私は信用できるけど?」
「じゃあ、どうやったら、お姉ちゃんはソナタくんと私の関係性に納得できますか?」
「ん~。私は足が悪くて。2人の方へ行って、お話しできないのね~。かと言って、療養部屋で長々と話すのはドームに迷惑でしょうし。あ、そうだ! アイスブレイクもかねて、オンラインで私も参加する観光に行きましょう!」
ぐぬぬ。この話、結論ありき。
最初から、オンライン旅行を提案するつもりだったのだろう。
まるでこの部屋の天井から覗き見られているような感じ。
本場のエルフの能力、相手の心を読む能力に私たちは踊らされていないだろうか。
シドニーの思う方へ私たちは誘導されている。
傀儡子のように巧みな技だ。
エルフの能力が低いレナは、姉の戯れになれているのだろう。
それでも、鼻で笑った。
「エルフらしくない私だけど、人間らしさが身に着いた。今の私に不可能はないんだよ!」
「え~、そうなの~。じゃあ、上小阿仁村に行きましょう! 万灯火が見たいわ!」「かみこあに……うん、分かった。アイスブレイク秋田オンライン旅行は上小阿仁村だ!」
「うふふ。21日楽しみにしていわ」
まるでラスボスを前にした探偵だ。
万灯火って、春彼岸の中日に道端で火文字を作るものだったはず。その夜の行事まで上手く観光プランを回さないと、シドニーには勝てない気がする。
レナは強気に話していた。ただ電話を切った後、すごく不安そうな顔で私を見てきた。
それは探偵エルフさんとしてノーグッドだ。
ノープラン観光旅行でシドニーを説得できるかーい!
弱気なレナの様子を見て、私は重い溜息をついた。
シドニーのペースに2人とも飲まれていたので、計画を立てて練習はしないといけない。
さてさて。
アイスブレイクとして、私たちの関係性も春の大決算を迎えていた。
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