秋田へようこそ探偵エルフさん16-1

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アイスブレイク秋田オンラインの謎を追え!【事件編】

前回・・・秋田へようこそ探偵エルフさん15-3

 文字通り、雪解けの季節がやってきた。

北日本にある秋田県大館市あきたけんおおだてし、私たちの住む町だ。

 この北国にうんざりするほど降った雪は、今ほとんどなくなっていた。

 3月に入ってから、絶妙なマイナス気温と雪の降る日は少ない。

 しとしと降る雨や温暖な晴れの日が続いたからだと思う。

 最近、地元でも散歩できる道になってきた。

 行き交う車が起こす砂煙。生っぽい土の匂い。排水溝の臭い。

 ふと視線を足下へ。雪が解けた後には、緑を戻しかけている葉っぱが目に付くようになってきた。

 ふきのとうをはじめ、新芽も見える。

 もう一度言いたい。長い冬は終わったのだ。

 さて、春分の日の前話になる。

 高校生の私たちは苦手科目を何とか助け合い、無事に高校2年生へ進級が決まっていた。

 後は高校1年生としての消化試合だ。

 春になったら運動をすると宣言していたレナは、少しずつフィールドワークを再開していた。

 去年行けなかったところに、私と2人でどこから行こうか、という話にもなっていた。

 そう言われると、冬から運動しなかったことを怒る気にも私はなれない。

 平和な毎日は続かないのがお約束。探偵エルフさん自体が事件の引き寄せをしている。

 ニコニコ笑いながら話していたエルフさんの表情が、iPhoneにかかってきたとある人からの電話で、一瞬にして固くなった。

 エルフさんの天敵、そして私の縁戚である、女子大生のドームからの電話だったようだ。

 歯切れがいいエルフさんのえふりこぎ話も、ドームの前では未だにたじたじになっている。

 えぇ、うん、ああ、そう。

 本当にそこまで嫌わなくても良くないかな、と私は思う。

 でも、私はレナ=ホームズ本人ではないので、当事者同士が解決したければすればいい。

……え、ドームが私に電話を替われって? エルフさんのように、助手の私もおずおずと電話に出る。

 予想外なことに、知らない女の人の声だった。

「いつも妹がお世話になっています」

「……はい、お世話様です。その妹さんはレナさんのことで間違いないでしょうか」

「ふふふ。いつも方言で話す娘と聞いていたけど、ソナタさん、はじめまして。私はレナの姉のシドニー=ホームズです」

「お姉さん!!」

 私は驚きのあまり、つい声を大きくしてしまった。

 隣に座っていたレナが、ぽよんと驚き飛び上がった。

 白々しい反応だ。少し睨むような、少し困ったような。

 そんな複雑な顔でレナを見つつ、「すみません。驚いて声を大きくしました」とだけ話した。

 ふふふ、の笑いがデフォルトなのだろう。

 シドニーはそんなことを気にしていなかった。

 いやぁ、別のことを気にしているようだ。根に持っているに近い声の圧を感じた。

 うーん、恨みというのは正確な感情表現ではない。向こうの感情が読み取れない。

 私の困った感情メーターが上がる。

 困った。困った。

「ソナタさんは、私の妹とお付き合いしていますよね?」

「……う……はい、間違いないです」

「ぜひ今度、弘前ひろさきでお会いしましょう」

「……えぇ、もちろんです」

「その前に、私のレナを奪うに値する女性かしら?」

「はい?」

 レナが姉シドニーに依存していた過去は知っている。

 ただ、シドニーが妹レナに依存していたとは、私は誰からも聞いていない。

 あの自我欲の化身ドームが上手く、同居しているらしいシドニーに話しているとは思えない。

 とりあえず、心臓が跳ね続ける。

 私の感想は、大きな間違いを起こしかけているという焦りが一番だ。

 そして、ぐいぐい迫るように話すシドニーが苦手だ。

 レナが少し冷静さを戻したらしい。

 電話を水平に手で持つようにジェスチャーをした。

 とんでもない姉妹喧嘩になるかもしれない。

 不安な目線で合図した後、私は電話を水平に手で持った。

 それでも、レナは比較的落ち着いた話し方だった。

「ソナタくんが困惑しているので、私も会話に参加します」

「あら、ごめんなさいね。お姉ちゃん、困らせるつもりはなかったわ」

「ソナタくんはお姉ちゃんの思うような悪い人ではないです」

「そうかしら? むしろ自分の欲望に素直な人の方が、私は信用できるけど?」

「じゃあ、どうやったら、お姉ちゃんはソナタくんと私の関係性に納得できますか?」

「ん~。私は足が悪くて。2人の方へ行って、お話しできないのね~。かと言って、療養部屋で長々と話すのはドームに迷惑でしょうし。あ、そうだ! アイスブレイクもかねて、オンラインで私も参加する観光に行きましょう!」

 ぐぬぬ。この話、結論ありき。

 最初から、オンライン旅行を提案するつもりだったのだろう。

 まるでこの部屋の天井から覗き見られているような感じ。

 本場のエルフの能力、相手の心を読む能力に私たちは踊らされていないだろうか。

 シドニーの思う方へ私たちは誘導されている。

 傀儡子のように巧みな技だ。

 エルフの能力が低いレナは、姉の戯れになれているのだろう。

 それでも、鼻で笑った。

「エルフらしくない私だけど、人間らしさが身に着いた。今の私に不可能はないんだよ!」

「え~、そうなの~。じゃあ、上小阿仁村かみこあにむらに行きましょう! 万灯火まとびが見たいわ!」

「かみこあに……うん、分かった。アイスブレイク秋田オンライン旅行は上小阿仁村だ!」

「うふふ。21日楽しみにしていわ」

 まるでラスボスを前にした探偵だ。

万灯火まとびって、春彼岸の中日に道端で火文字を作るものだったはず。

 その夜の行事まで上手く観光プランを回さないと、シドニーには勝てない気がする。

 レナは強気に話していた。ただ電話を切った後、すごく不安そうな顔で私を見てきた。

 それは探偵エルフさんとしてノーグッドだ。

 ノープラン観光旅行でシドニーを説得できるかーい! 

 弱気なレナの様子を見て、私は重い溜息をついた。

 シドニーのペースに2人とも飲まれていたので、計画を立てて練習はしないといけない。

 さてさて。

 アイスブレイクとして、私たちの関係性も春の大決算を迎えていた。

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【つづく】

秋田へようこそ探偵エルフさん16-2

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