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ばっけ味噌ライスボールの謎を追え!【事件編】
現代日本の田舎、東北地方の北部。秋田県人口は100万人を割り、88万人を割り、いつも瀬戸際にあるような気がする。
私の住む、秋田県大館市は、昼夜の光が自然とともにあるような場所だ。 さて、今の大館は、春の最中だ。今季の冬は、少し強めで短期間だった。
そのおかげで早く春を迎えている。
桜の開花予報通りで、先週末から少しずつ咲いていた。
私は春が好きだ。
たった2週間の躓きならば、春の穏やかな感じは許してくれるような気がするのだ。毎日が幸せだと、もっと私は生きやすいのに、現実世界ではそれが難しい。
だから、せめて小さな幸せとして、1人でゆっくり桜を見ていたい。
せっかく近くの桂城公園まで歩いてきたのに、こんな昼下がりからお花見をしている。知らない家族や会社員たち、若い人たちに、私の小さな幸せはぶち壊された。
冬囲いが外された噴水前まで歩いて行き、私は下を向いてため息をついた。
体感的な面では太陽の下でも、東北の刺すような春風は冷たい。 「はぁッ、寒ぃ」好きな時期だから、桜の季節だから。
だからこそ、陽気さに憂鬱な感情がかなり混じる。いっそ春も嫌いになれたら、どんなに幸せだろうか。
雪解け水だって、川から海に流れ去ったのだ。
春の弱気は、私を売れない詩人へ替える。
そんな春の詩人と化した私の靴先に、コツンと石が当たった。
ふてぶてしい程、ずんぐりした顔で細目、愛嬌ある顔立ちは、お世辞にもシャープな美形ではない大型犬の顔。 そんな天然記念物の秋田犬の顔が、河原の石に絵具で描かれていた。ちょっと期待して、拾い上げてしまった。
裏面をついでに見る。
WA ROCK ODATE
わろっく、か。それとも、和ロックか。
それが大館とどういう関係だ?意味は分からなかったが、私は久々に周囲をキョロキョロと見回した。
これを落とした人がいるかもしれない。
「ふーむ、良い目をしている」
気取ったような少女の声だ。
どちらかというと、英語のアクセントが混じった日本語だ。
私ほど訛っていないのが、少し羨ましい。私に、わざと石を拾わせたのか。
他の大館の人たちは、警戒心が高いのか、無視していたようだ。 嵌められたと思った。だけど、私の方が彼女の容姿に見とれてしまった。
海外の美少女が、木製のベンチに腰をかけて、脚を組んで座っていた。
彼女の靴は、歩き続けたせいで泥と傷だらけだった。
一方で、きちんと身なりが整った女性用の探偵服、白い肌は透明で、何より線が細い。
小顔で目鼻が整っている。
勝気そうで、大きな碧い目は全てを見通すよう。長い金髪は2本に結われて、帽子からのぞいていた。
一番、私の目が離せなかったのは、帽子から2つ出ている、その長く尖ったエルフの両耳だ。「あ、探偵エルフさんで合ってらが」
「そう。私は……」
ぐー。
彼女の腹の音がなった。
春の陽気な日差しは、真面目なシーンでも空気を読まない。
気取った探偵エルフさんの表情が崩れた。
我慢が限界だったらしい。「ごめん。腹が減ってきた」
「あー、んだがー」
私は、パーカーのポケットに、石ころを突っ込んだ。
代わりに背中に下げていたリュックから、小袋を外へ引っ張り出した。
さらに、その小袋から自分で握ったおにぎりの包みを2つ取る。
ジブリ映画の少年キャラみたいに、不器用に「ん!」だけ口にして、探偵エルフさんの手におにぎりの包みを押し付けた。
エルフさんは状況を理解できていなかった。
困った顔で手にしたおにぎりと、私の顔を見ている。
飼い犬でいう「よし。食べて良いぞ」の私の指示待ちか。
「金だば取らね。まんつ、食じゃ。その代わり、隣さ、座って良ぃが?」「あぁ、いいとも。かたじけない。わぉ、ナイスライスボール。いただくよ」
私は、探偵エルフさんの座るベンチに、一緒に腰をかけて座った。
私たちの視線が同じになる。
小器用に手で包みをあける、エルフさんは目を見開いた。
少し炙ったおにぎり、つまり焼きおにぎりなのだ。 彼女は嬉しそうに微笑むと、私の作ったおにぎりに、かじりついた。 頬がリスのように膨らんで動く。ややあって、彼女は口を開いた。
「ふむふむ。へぇ、意外だ」
「どう変わってらって?」
「山菜の苦味は、味噌と合うんだな。ガッコと同じように米が美味しくなる」「あー、ふつうの反応だなぁー」
日本人よりも日本を知っています顔で、エルフさんは良いコメントをした。
ちょっと期待外れで、私は拗ねた。 おにぎりを少し炙って、味噌をみりんで溶いてからだと、工程3つでおにぎりに溶き味噌を綺麗に塗れる。 焼き目も、見た目も、ばっけ味噌おにぎりとして良くなる。食欲に負けず、料理は焦らず丁寧に、調理の工程を意識して、か。
今は弘前の大学に進んでしまったけど、小学生の頃の私に料理を教えてくれた姉みたいな存在の人がいる。そのおかげ様で、見ず知らずのエルフさんの腹を満たすことが出来た。
「残念ながら、私は日本に来て8年目だ。さすがに日本慣れしている。それで、この山菜はナニモノだい?」
「ばっけ」
「え、何て?」
「ばっけを知らねえが。えーと、ふきのとう」
「……ッ!」
今度はエルフさん、焦った顔になる。
彼女の顔が、私の顔に、すごく近づいた。
生真面目に、エルフさんは物申した。
「胃薬は持っているかい」
「え、要らねーべ。んだって、灰汁抜きはしたど」ここまで生真面目に、山菜が何たるかを知っている外国の方は初めてだった。
ある意味で、一周回って新鮮な反応だ。
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