本ページはプロモーションが含まれています。
【広告・PR】
しずかな湖畔 やさしい告白の謎を追え!【事件編】
秋の紅葉狩りの最盛期になった。
秋田県大館市は、最低気温に1桁も現れはじめ、空気が澄んできた。夕暮れの空と雲の色、稲刈り後の田んぼから見える山や川、外の空気、色なき風は、ため息が出るほど美しい静止画のようだ。
ひとたび雨が降り出しても、次の瞬間には晴れの顔をしているのだ。
その雨は寒さを徐々に強めてくるので、季節が移っていくのを体感的にも感じる。
生命が動き出す春とは違う、秋の静かで穏やかに生命が止まり出す感じが、ただ優しすぎて怖くもある。
秋は次の冬、いや春を待つ時間の流れを整えてくれていると思う。
この1年間の思い出を噛みしめながら、私たち秋田県民は、次の暖かな季節を待つのだろう。秋の寂しさは、幼いころの亡き母との思い出を懐かしむから。
今、不安なのは、君だけではないんだよ。
大丈夫。
きっと大丈夫。
ゆっくりでも進んでいける。
これまでの経験が、止まっているように見える秋の移ろいやすさを教え、これからの私たちに未来を与えてくれるから歩く道は見えてくる。
さて、我がヤナギ家も後2か月少々で、冬を迎える事実に驚いていた。
今更ながら、春以来の小旅行を計画したのだった。
秋の朝。
一気に来た秋の寒さに、秋田県民たちの身体が慣れる頃だ。
私たちの早起きも元に戻った。
私の父ミツハルは、仕事の木工作業が少し落ち着き、疲れを癒す場所で思い切り寝たいようだった。一方、私は静かなところで、お昼ごはんを食べたかった。
それに市日に行って、食べ物をたくさん買う目的もまだ果たしていない。こういうとき、一番に騒々しいレナ。
彼女が珍しく、何も言わない。
考え事をしては、うたた寝をしている。
ニプロハチ公ドームで先日あった、きりたんぽまつりで吹っ切れた私とは違って、酷く彼女自身を追い込んでいるような気がする。
無口探偵エルフさんなのだ。
一瞬外した目線を、また父へ戻す。
私の意見を聞いて、父は良い案が浮かんだようで、ゆっくりと大きく頷き返していた。 「おぉ、そいだば、五色湖にピクニックさ行ぐど」 「ごしきこって、何処だっけが」 私にも分からない大館の観光地はある。それが父より後世である証拠だろう。
温故知新として、素敵な場所を知ることが有難い。勉強しているような難しい顔で見つめ返した私に、腰に手を当てた父は苦笑いして、間をあけてから答えた。
どうやら、大館市内だろうという私の直感は当たった。 大館市、旧田代町の景勝地だった。 「田代の山瀬ダムだ」 「へぇ、田代なんだぁ。んだば、早口市日だな」 「「良っすな!」」父と私は笑顔でハイタッチする。
女子高校生らしくないし、大人らしくない。
それでも、秋田で楽しく暮らせるなら構わない。
それに自宅だと、レナ以外、私たちを誰も見ていない。
秋の生活に『ない』ことで苦しみを覚えるくらいなら、秋でも『ある』ことを楽しんだもの勝ちだ。
秋田時間は、全国的にルーズでずぼらな印象らしい。
私たちの歩みはゆっくりだ。
ただ忙しない時間に縛られず、太陽と月の時間の流れともに生きている人が多い。
そう、私の想像は季節問わず、秋田時間で『ある』ことを楽しんでいる。
色を失っても慌てない。脳内お花畑をゆっくり塗りつぶすのだ。
ただ、レナの曇った顔はもっと暗くなった。もう1人で彼女は先に冬モードだ。
ようやく、父に手を引かれて、車へ彼女は乗り込んだ。
どうして彼女はそんなに考え込んで、神経が衰弱するくらい疲れ切ってしまったのだろうか。
私は『待っている』と言った手前、その発言を撤回することはしない。
父の運転するヤナギ家の車は、地元民が言う下の道、国道7号線を早口・北秋田方面へ進む。まだ比較的早い時間で、そんなに車が混み合う様子はない。
稲刈りが終わった道路沿い。
朝靄が消えかけて、後部席からでも前の道が良く見え出した。緊張も天気も、私周りの秋は緩い。
さらに身近な事件が少ない。
ただ同じ道を繰り返すような考えごと、いわゆる悩みごとが続く。
この時間は幸せが近づく前にあって、問題解決のために必要なのだ。
そういえば。
大潟村の桜と菜の花ロードを春に、私たちは見に行った。春にも同じ風景を見た。
でも、私と彼女の立場が逆転しているので、心境の違いもあるのだろう。
私は思い出すのに、時間がかかった。
あの時の彼女の思いに、今ようやく、私も気づいた。
待つ方が穏やかな心を持っていて余裕があると、今、私は彼女を心配できるのだ。
彼女とは質や量が違うかもしれないけど、今、私の心は他人の痛みを受け入れられる。
【広告・PR】
