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市民のにゃー! 比内とりの市の謎を追え!【事件編】
1月の最終土曜日。秋田県も大寒のころだ。
最高気温までマイナス気温なので、道も家もカッチンコッチンな凍てついた状態である。
雪の質がサラサラしていて、朝の煌めきは幻想的だ。
でも、除雪をがんばってしていたら、その景色は日常の中に消えていく。
なんだか今日は、寒い風が強く吹きつけている。
見える杉の木々に真っ白な雪が降りかかり、ちょっと美味しそうなのだ。
そんな感じで、冷たい雪の中での雪かき作業の汗もあり、私の思考回路はショート寸前である。
ぼんやりする頭で考えた。
9時過ぎには、比内へ向けて出発したい。だから、早めに除雪を終えた。私は身体にまとった雪を払い、温い室内へ入った。家外の寒さを後追いで感じる。
「うへぇ、さんびー!」
「おー。ソナ、おはよう。あぁ、全部1人でやってくれたか。ありがとう」
「お父さん、朝から疲れてねぇが?」
「うーん、この時期は家さ籠りがちになるべ」
「私は職人さんでねぇがら分がんね。レナは?」
「辛辣なお言葉だ。レーちゃんは、まだ寝でらべ」
「あー。私、起こす」
私の父、ミツハルは、木工職人だ。
冬場は寒い中、室内に籠って作業しがちだ。
時期的な仕事の繁忙もある。今、娘の私が出来る家事を負っている。
真冬の田舎で、2人暮らしはお互いの機転が利かないと上手くいかない。
うーん、じゃあ季節は関係ないね。その都度、助け合っているから。
一方で、居候。探偵エルフさん、レナ=ホームズは、夜更かしの常習者だ。
昨日の夜遅くまで、何の映画を見ていたのだろう。
昨晩の夜更かし、テンション高く笑ってらっしゃった。
さて、今朝に話は戻る。
私が汗を拭いて、服を着替えていると、そのエルフさんが布団から起きて、目をこすりながら歩いてきた。
白猫の着ぐるみを来ていたので、猫エルフという新種(嘘)である。
彼女は着ぐるみを脱いで、私服に着替え……やめた。
低気圧の朝に弱いタイプか、それとも寝ぼけているのか。
「うー。さむ。着替え中止」
「にゃー! おめだばいつまで寝てらんだ!」
「にゃー?」
「そこに疑問を抱ぐでね! まんつ着替えろ!」
にゃー、にゃーはー、もちろん猫語ではない。
ただの方言的な感嘆だ。
全国的には、あーもう! と少し怒り気味になる感情だ。
レナは冬用の探偵服に着替えたようだ。
ただ今日の行く場所を考えた私は、極地防寒具のような恰好に彼女をさせた。
今日の吹雪、着過ぎて汗をかくくらいで、まだマシだ。
彼女は眉を下げて、冗談だと思って笑う。
「さすがに厚着じゃないかい?」
「……」
私は無言で応える。
おもむろに、室内のストーブを消して、窓を開けた。
さすがに彼女も、秋田の冬に気づいたようだ。
イギリス娘は目を丸くして、私に賛同した。
さて、出発……とならなかった。
父の車の窓が凍結していて、なかなか出発できなかった。
にゃーはー! はい、こういう使い方だ。
本日、踏んだり蹴ったり。
車で出発してからも、道路の地吹雪が激しい。
餌釣から大館南バイパスに入り、鹿角方面へ向かう。この国道103号線も視界真っ白な雪道であった。
父はスピードを落としつつ、難なく運転している。
安全運転、右折。扇田大橋を越えると、もう目的地の駐車場であった。 道の駅ひない隣の大館市比内総合庁舎。ここから会場の比内グラウンドまで800Mある。
まぁ、歩いて行こうかな。
私の動きに、父は半端な反論をした。
感情的になりつつあった私は、電話越しに父へ話す。
「いやー、ソナ、歩いて行けるとは思えねばって……ちょ、仕事の電話だ……」
「だば、会場前で降ろしてけれ」
「あー、ごめん。急いで市内さ戻らねばならね。2人とも降りて!」
「にゃー! 今日は何だぁ!」
私たちの下車後、すぐに父は車で比内から離脱した。
まだ私は会場まで歩いて行こうと思った。
その強情ぶりに、虚弱エルフさんは本気で焦ったらしい。
目敏く周囲を観察していたレナは、急ぐ私の袖をつかんだ。
「ソナタくん、シャトルバスで行こう!」
「え、あぁ、うん」
私の怒りはすぐに消えた。
最近、レナが私の扱いに慣れてきた気がする。
一瞬の間で、冷静な判断をしている。探偵さんの観察力が発揮される。
シャトルバスは快適だった。
そして私たち2人は、比内とりの市の会場である、比内グラウンドへ到着した。【広告・PR】