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アイスブレイク秋田オンラインの謎を追え!【解決編】
七倉山の中は、木漏れ日が差しており、鳥の声が鳴り響いていた。雪解けは参道も例外ではなく、転ぶ心配がないと私は思った。
ただ、レナとドームがハイペースで山を駆け上っていったので心配はある。
すると、ドームが息を切らして黄昏ていた。
体力が持たないのは、車の民である東北地方民あるあるだ。
それにしても、探偵エルフさんの貧弱な体力に負けるのか。
私の棘ある言葉に、ドームは項垂れた。
「昨年の青森方面は、すごい雪でさ。毎日雪かきしていたのだけど、最近は運動をめっきりしてなかったから……油断した」「レナはスイッチが入ってらべ。自己過信した運動をし出らど」
「たぶん、そうかなー。私は下山しまーす。後、よろしくー」
「ドーム、気をつけで山下りれな」
そう言って、ビデオカメラを渡された。
む、そういうことか。
私はシドニーとしばらく、2人きりで登山になった。
ただ察しのいいエルフ姉は、私の足を止めるような会話をしてこなかった。
結局、山の上の神社前でレナと合流した。
ドヤ顔を私に向けるんだ。いや、ドームと勘違いしているのか。
私は無言で、カメラの画面を逆に向ける。
エルフ姉の冷ややかな視線をレナにプレゼントした。
「レナちゃん、空気は読もうね」
「うぅ、ごめんなさい」
七倉神社に3人で参拝して、下山になった。歩幅を狭く歩けば、通常は転ばない参道だ。
ただ、レナの足取りが怪しい。
転ぶだろうと思っていたら、7合目あたりで滑ってバランスを崩した。
後ろから私はその手を引き上げ、身体を両腕で抱きしめた。
幸いレナに怪我はない。
だけど、耳を真っ赤にして私の方を見ずに彼女は訴えた。
「もう大丈夫だから、離してくれないかな」
「あ、ごめん!」
赤面2人の距離が離れる。ふふーん、みたいな目でシドニーが画面から見ていた。
私は視線を逸らして、7合目から見える田畑と山の風景を見た。
エルフ姉もすぐには私たちを弄らず、風景についてまず感想を言った。
「風景もきれいなところね」
「んだすな」
「ソナタさん、レナを助けてくれてありがとう」
「え? さっきのごどだが?」
「それも込みね。ソナタさん、意地悪してきたのは謝るわ。前のレナは、私の傍にいるだけで、お祭りにもいけなかった。でも、今はあなたの傍にいるだけで幸せそう。もうそこに何のわだかまりもないの」
「……」
私は声を一瞬失う。
シドニーは何も悪い人ではなかった。
それが大きな間違い。シドニーは妹を溺愛している。
だけども、自分の許に置くことをよしとしていなかった。
だから、かわいい妹を東北の旅へ出したのだ。
エルフに煽られて自分を見失っていたのは私の方だ。
今、気づいた。
つまり、シドニーに私の人間性を見られていたようだ。
レナは安堵した。
そして、姉に改めて報告する。
「お姉ちゃん、ソナタ君は私のかけがえのない人だ。たぶん、あの言葉を聞いてもソナタ君の気持ちは変わりないだろう」
「そうだと思うけど……それは夜の万灯火までお楽しみにしようかしら」エルフ姉妹は意志疎通している。ちょっとズルさを感じつつも、あの言葉ってなんだろうと私は思った。
そうこうしているうちに参道の下りは終わりに、鳥居の外の石段に座っているドームと合流した。
「何だか、3人だけで話が進んでいないか?」
「ドームの認識で間違いないわ」
「シドは、仕掛けるのが上手いや」
「えへへ~、エルフさんですから」
なるほど、いつも私とレナはこんな話をしているのか。
ドームとシドニーの掛け合いで、何となく自分たちの立ち位置が分かった。
ドームにビデオカメラを返す。
道の駅まで優しい風に吹かれて私たちは歩いた。
しばし、夜を待つことにした。
休憩所でどれほど4人、積もる話をしていただろうか。
時間というのは湯水のように溶けていく。
春分の日でも、19時を過ぎるとすっかり暗い。
あんなに温かった空気も、春の夜の冷たさを帯びていた。
道の駅かみこあにの裏手にある河川公園の土手には少しずつ人が集まり出していた。
松明の灯はまだ準備中なのか、1つのみ対岸に見えた。
わずかに待つ間、シドニーは私に最後の問いをした。
「私たちエルフ種より、人間は早く歳をとります。あなたはレナを忘れないでいてくれますか」
「あー、さきたの! あの言葉だが? うーん、先のごどだば分がんねぇなぁ……」
「うふふ。未来は分かりませんか。秋田県民は皆さん、悠長ですね。ドームも同じ返事をしましたよ」
「んだのが。せば、良がった」
ドームも、私も、秋田県民の気質は同じだ。質問の答えのように、程よい抜け感がある。
秋田県民の時間感覚は遅い。
きびきび動く人も中にはいるけど、秋田時間はおだやかな時間の経過のことだ。
たまに約束を遅刻する人がいるからね。
それに、未来のことは分からない。
でも、万灯火のように地元の人に受け継がれて残る文化もある。仮に。
未来で私たちが寿命を迎えても、この秋田の文化が残り続ければいいな、としか今は思わない。
闇夜にふわりと浮かぶ『上小阿仁 小沢田 中日 万灯火』は、赤い火の文字だ。私たち秋田県民が思っていること。
エルフさんたちが思っていること。
秋田の文化を体験していく中で交わり、同じ時間を共有した者同士、分かり合えることがきっとある。
文化の体験交流がきっかけで、固まった緊張が解けて、アイスブレイクになるはずだ。
だから、同じ空間のパートナーである、探偵エルフさんのレナと助手の私は『日常の中にある不思議と良いな』を探して、この気持ちを共有していく。
これから会う皆さん、秋田へようこそ!
【おわり 閲覧してくださった皆様、ありがとうございました!】
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