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秋田犬ハチの耳の謎を追え!【事件編】
まだ出会ってすぐの春の頃、私たちのリアルなお話だ。
奥秋田のたくさんの情報に、探偵エルフさんは目を輝かせていた。
新しい同居人である彼女との距離感が、私は分からなかった。
そして、この大館の魅力の伝え方も、同様に分からない。友人とのいざこざ、私の家族内の問題、日常生活の各方面で発生した不安同士が絡み合い、私の中で感情的な消化不良を起こしていた。
この時の私は、泣き出すことを我慢している子供のような状態だった。だから、探偵エルフのホームズさんにも、『少々やっかいな案件』があるのを、軸が不安定な私は見抜けなかったのだ。
この話は、4月の第5週日曜日、桜の花が満開の大館市内で進むことになる。 桂城公園での出会いから数日が経っていた。探偵エルフのホームズさんを、私の家に上げるのには抵抗がなかった。
それに居候になってもらうことも同様だ。ただ私には、まだホームズさんに打ち明けられない、秘密がたくさんあったのだ。
そのうちの1つが、高校に入って3週目になるのに、私は不登校の引きこもりであることだ。
高校で再会した旧友に酷い裏切りを受けたのも、登校拒否している理由のうちだ。
心から弱った私を、知り合ったばかりのホームズさんに知られたくなかった。
私は朝の散歩から帰ってきた。
家の中に入ると、朝ごはんの良い匂いだ。
廊下をダイニングに向かって歩く。
おそらく、ハムと目玉焼き、今日の匂いは洋食っぽい。
私が不登校でも、家事は平等だ。
父は洋食派、私はごはんと味噌汁派。今日の朝食は、父の担当という訳だ。
ホームズさんは、私たちが食卓に着いた直後に、寝ぼけた目でやって来た。
海外の人は、ホームパーティー以外の普段の食事は軽いと聞くけど、探偵エルフさんもそうなのだろうか。
あまり朝から食べたくなさそうな彼女は、無難にポテトサラダを選んで、器用に箸で口に入れた。
次の瞬間、眠気が飛んだようで、目を見開き彼女は叫んだ。
「あ、甘いッ! ポテトサラダが激甘いッ!」
「砂糖の塩梅は、おっけーじゃねーがな」「砂糖って、シュガーは飲み物に入れるものじゃないのかい?」
「食べ物にも入れっべ」
「あぁ、お菓子にね」
価値観の違い。
秋田県民の私は、ポテトサラダは砂糖が入って甘いものだと思う。
逆に、甘くないポテトサラダがよく分からない。
イギリス人だが、関東地方にも長く住んでいたホームズさんは、日本の食文化にも通ずるのではないだろうか。 洗体した秋田犬のように、ホームズさんは左右に首を振った。「向こうで食べていたポテトサラダは、ペッパーが利いて、ちょっと塩辛いものだったぞ」
「はっはっは、んだがもしれねぇな」
自分が作った朝食を侮辱されたのに大爆笑だ。
私の父、柳光春は、強面の顔を崩して笑い上げた。木工職人にしては、大柄のヤンキーがそのまま壮年男性になったみたいな雰囲気を持つ。
なので、父は守破離に厳しい業界の異端児であり過ぎた。
故人の義父、いわゆる私の母方の祖父をはじめ、たくさんの人に怒られてきたそうだ。
その父が、独立して数年経つ。
今の時代が、若者受けやSNS映えで、変わった作品も拾ってくれた。
そのおかげもあり、ここ5年間くらいで、私たちの暮らしはだいぶ良い方に変わった。
良くならなくても、見た目以上に内面が頑固の父は何とかしただろうと、娘ながらに私は信じている。
鋼の精神力だからこそ心がぶれずに、知り合ってからの期間が浅いホームズさんにも、父は寛容だ。
一方で、私は何をやっているのだろうか。
ううん。いけない、いけない。
今度は私がブルブルと首を左右に振った。
秋田犬のモノマネ2号の私。 「はっはっは、ソナも秋田犬ごっこだが?」「違いますぅ」
私は怒ると、平淡な物言いになり、秋田弁を忘れる。
拗ねた顔で、ホームズさんに目をやる。今後はカップのオニオンスープを飲んで、エルフさんが首を左右にブルブルと震わせていた。
「しおから!」
「だっはっは。エルフさんさだは、しょっぺぇべ」
洗われた後のわんこ状態の反応に、いちいち笑う父。
繊細な木の削りをする父が、塩加減を間違うはずがない。
私はオニオンスープのカップに口をつけて吸った。
「あんべいいばってな。私の中さいだ秋田犬だば里さ帰った」「おー、そいだば良いなぁ。ソナ、エルフさんをそさ連れてけ」
「何、冗談言ってんだ。あー、『秋田犬の里』のことだが。んだな」 大館のスポットとして、とっつきやすい場所にある『秋田犬の里』という施設がある。 大館駅に降りたら、すぐ入りやすい最寄りの場所にある。 月曜日以外は秋田犬が展示される。 お土産も豊富なラインナップで、施設内に大館市の観光案内所もある。そんな訳で、わが市の観光客にオススメである。
なるほど、父の話で、何言っているか分かった。
だから、否定的な返事をはじめた途中で、私は反応を好意的な方に替えた。
会話が複雑化したせいか、ホームズさんは困惑した。
「秋田犬! あぁ、そのぉ、渋谷駅のだなぁ、ハチ公像かぁ」「んだ。お互いを知るきっかけになるべ」
「ミツハルさんが言うなら! えぇ、分かりましたとも!」
なぜか、興奮気味のホームズさんは、ヤケクソに叫んだ。
その反応を聞いて、私は混乱した。
私のことを知りたくないのか。
いや、父から聞いている私の話もあるのか。
疑心暗鬼を生んだ。
私の秘密をホームズさんに知られたくない。
まだ心の準備が出来ていない。
そんな小さな理由があった。
綺麗に咲き誇る桜を素直に見ることが出来ないくらい、私の中で不安が拍車していく。気温が上がらない曇り空。
冬の名残が残っているような天気だ。
そんな屋外に出されたホームズさんは、渋い顔で小さく口を動かした。
「これは『少々やっかいな案件』だなぁ」
「じゃ、案内すっがら、行くべし」
私は怯えた顔を一瞬してから、無理に無表情にして春の道を歩く。だけども、後で気づくことになる。
このエルフさんの発言は、ただ正直なのだ。
私が引きこもりの自分を探られないように振る舞うのと同時に、ホームズさんは彼女自身の不安な案件を抱えていた。
掛け違えたままのボタンでは、とめた先のゴール地点も違う。
年季が違う父には、子供2人の価値観を合わせる必要性が見えていたのだろうか。
お互いを知るきっかけとは、私の父ながら言い得て妙だ。
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