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秋田犬ハチの耳の謎を追え!【推理編】
住めば景色も見慣れる。
ましてや、元から秋田在住者の私には、比較対象がテレビ番組やインターネット、SNSでの華美な世界ばかりだ。
秋田県の、その北部の大館市の良さがイマイチ理解できない。しかし、外での調査を開始したホームズさんは、いちいち立ち止まり、虫眼鏡でじっくり観察し、ニヤニヤした表情を受かべていた。
エルフの長い耳が目に痛い。
何より、金髪碧眼の美少女は、その奇行がこの町では浮いてしまう。
彼女の視点はユニークだ。
大館市の下水マンホール、橋の欄干、そして道路のタイル。
秋田犬が溢れているのを、私は知っているようで知らなかった。ただ当たり前に溢れるものを、舐め回すように見つめられると、背筋に悪寒が走る。
「そんたもの、何処さでもあるべ」「あるかもしれない。ないかもしれない。現地に行かないと分からないことだ」
「それさも価値があるってが?」
「少なくとも、私には、ね」
その声に張りがある。
自信満々に答えるだけの現地調査を重ねて来たのだろう。
私は……いや、私もそういう良い表情になりたい。この感情は嫉妬だ。
すると、探偵エルフさんは、私の顔を虫眼鏡でのぞいた。
子供じみたイタズラをして、ムッと私の顔を変化させる。
少しケラケラと笑ってから、真面目な表情で語るのだ。
「ソナタ君、君はつまらないことを考えていたね。私は君ではないし、君は私ではない。だから、私の価値観は私のものだ。同様に、君の価値観は君が探すしかない」
「ふーん。私の考え方を否定しねのが」
「しない。ただし土地勘ない私は、君に見捨てられたら、ここで迷子になるのを忘れないでくれ」
「んたことッ、さね!」
前置きの後に本音が見えた。
イギリス人は建前の裏に本音が見え隠れする。彼女もそうなんだろう。
彼女の先に立って、無言のまま私は歩き出した。探偵の悠長なペースでは、秋田犬の里は閉館時間になる。
何も言わずに、探偵は私の尾行を始めた。
清水町を抜けて、御成町方面へ。
私は歩きながら、秋田犬のことを考え出した。
秋田犬は、国の天然記念物、日本犬保存会が認めた6種のうち1種である。
とにかく大きい体、ピンと張った耳、太くて長い足、クルンとした巻き毛。
ベーシックな赤毛。虎のような模様になった虎毛。雪のような白毛、などなど。
身体的には、猟犬の秋田マタギ犬を祖先に持つため、ガッチリな感じだ。
だが、目鼻を含めた秋田犬の顔立ちは、素朴かつ愛嬌がある。
その反面、性格は警戒心が強く、飼い主を守ろうとする防衛本能が高い。
こういった魅力があるからこそ、秋田犬への地元大館の期待がとてつもなく大きい。
だが、秋田犬の故郷だけでは、この地に長く足を止めることにつながるだろうか。
あれもこれも魅力ある街だって、もう一声ほしい。
誇らしさには、地元民としての危機感も常にあるのだ。
そんな私の心を見透かしたように、関東からやってきた探偵エルフさんは愉快に言った。
「へぇ、この銅像は何か違う気がするぞ!」
「……」
「何故、傷ついた顔をしているんだい。銅像というのは、人の思いの誇張だ」
「はい?」
「ちょっと階段を昇ってきてくれないか。そうそう。青ガエル、あの電車もそうだ。動かしてこそ電車という人もいるだろうが、モニュメントとしての役割は、私たちにとって大きな価値がある」
「どんた価値だ?」
「観光」
「んん?」
その真顔で普通の解答だ。高らかに宣言した探偵エルフさんは、ドヤ顔のまま、館内へ入った。
ここで観光とは、私の返事も詰まってしまったようだ。私は呆れたまま、眩しい空を見上げた。
雲の形の方が、単純な解答よりも面白い。久々に、くっっっっっっそ長いため息が出た。
すると、ホームズさんが、ちょっと引きつった顔で、両手に緑色のソフトクリームを持って帰って来た。
「お1つ、いかが?」
「へば、もらう」
秋田犬の里にある芝生広場のベンチに腰掛けて、青ガエルという愛称の電車モニュメントを見ながら、枝豆ソフトクリームを2人で食べた。
数年前に食べた『ずんだ』とは違って、枝豆ソフトクリームはこれで、別のアイスクリームという住み分けになっている。
ソフトクリームが枝豆でより滑らかな舌触りになった気がする。
それにコーンの中まで、しっかりソフトクリームが入っていて、かなり贅沢な感じがした。
食べ終わると、また探偵エルフさんに、私の顔は観察されていた。
「また、見方を変えられたようだな」
「さっき、なして焦ってたんだ?」
「それも後でちゃんと答えるとする……が、まず君の勘違いを1つ1つ解くことに集中したい。いいかな?」
「んー、答えになってねぇばって、そうせばいい」
腑に落ちない。
探偵エルフさんの推理を聞きたいわけではない。
だけど感情的にも、今は他人の話を聞いてみたい私がいた。
ソフトクリームのおごりは大きい借りだ。
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