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酷暑あきたネバトロうどんの謎を追え!【事件編】
最近、全世界というか、私の住む秋田県も世界と同じく、四季の移り変わりが忙しない。
私の住む秋田県大館市は、内陸で山々に居住区が囲まれた、盆地型の気候だ。春夏秋冬で特に影響を受けるのは、夏と冬。
夏は高い湿度と高温で不快指数大、冬は湿った雪がドカドカと多く降るので不快感があり、住んでいて困る。
あー、春ってこんなに短いっけ。
そして、梅雨とも夏とも思えないほど、異常に生暖かい季節に突入していた。
梅雨明け宣言が、各地方でマチマチな出方をしていた。
東北北部は取り残されたように、梅雨明けせず、今年も7月下旬を迎えた。そんな中でも、高校生活は日刻みで行事が発生していた。
高校総体、学校祭、そして前期末試験と過ぎて行った。
貧弱もやしっ娘エルフのホームズさんが耐えられる訳もなく、夏休みに入ったばかりの今日のヤナギ家の屋敷中、彼女は寝込んでいた。
かと言って、私は高校の夏期講習で登校日だ。
今日の天気、窓を全開に出来ない梅雨と夏のハイブリッドで発生した湿度強めか。
わずかな休み時間。
休みのホームズさんの席に、振り返る形で座り込んだ旧友のミヒロは怖い目つきで、通常の正面向きに座ってプリント整理をしていた私を、睨んだ。暑さにグレて大股で座るミヒロは、とにかく何か物申したいらしい。
別に私は、もう怒らないのだけど。
春の一件から、この旧友にも私の許可待ち時間が発生している。
私らしく扱ってくれる、律義な旧友に応えるのも、新しい私の役目だ。
「そんた目して、なした?」
「あーつーいーッ! レナっこがいないと、張り合いがないッ。それこそ、レナっこは、どうしたんだよッ?」
「病んで寝でら」
「へぇ、レナっこがねぇ。え、病んでんのか!」
旧友ミヒロは椅子ごと倒れそうになった。
それでもギリギリ転ばずに、踏ん張れるのがミヒロだ。
体幹のバランスは良い方、ただし体力は少なめ。
ミヒロの性格上、噂話はあまり信用しない。一番近くにいる私の口から出た情報が真実なのだ。
とても義理堅い姉御肌だ。
私が冷静な分析をしていると、旧友の方がまともな心配事を口にした。
「花が綺麗に咲く時期なのに、勿体ねぇことだ」 「へぇ、おめが花、愛んけがるの?」「あたしじゃないって。そういう趣味はレナっこ。それと、ソナも好きだろうが、花見。いや、お前さんは団子の方かな」
「ホームズさんも、私も、花見好きだなー。面白ぇ話っこだ。あはは……」 何だか、私は嫌な既視感がしていた。また上手く笑えないのだ。
ミヒロは流石に気づいた。
2度目の修正力と対応力は、旧友の方があるようだ。
不安そうな目だけど、まっすぐに私を見つめる。
「ソナ、ミーを頼んなよ。今日の講習終わったら、家に寄ってきな」「うん、分がった」
「レナっこに、あたしからお礼。それと、ついでにお前の食い意地を満たす方法がある。ただし、条件もある」
「ん、条件って?」
「うちのじいちゃん、雪沢の『じゅんさい』をもらって来たのは良いけど、あたしの料理力じゃ持て余すのさ」 「あー、『じゅんさい』。面白ぇ食材かもー」 両親が訳あっていないミヒロは、祖父と雪沢地区に同居している。中学校に入る直前まで、学区がなかなか決まらなかった。
結局、私たちは別々の中学校に進学したのだけど。
まぁ、それはそれとして。
今はまた同じ高校に2人とも在籍なのだ。
現状、ドヤ顔シェフ・ミヒロの料理力じゃ、『じゅんさい』という食材は活かせないだろう。
『じゅんさい』は、ハゴロモモ科の水生植物。
もっと砕けて言えば、綺麗な沼地でしか育たない貴重食材だ。 北海道や東北の秋田県で、特に有名である。レンコンに似た育ち方をするのだが、水面がキラキラと緑色に輝くので、別名は水中のエメラルドと呼ばれる。
見た目は、緑の植物がツルツルしたゼリーに覆われた不思議な感じ。
食感は、これまたツルツルと美味しい。
因みに、ミヒロの家庭科力は並みより上だ。
『じゅんさい』が貴重なため、あまり家庭で食べることがないので、調理法が分からないということだ。
そこで、私の食い意地、というより料理力なら大丈夫だろう、という訳だった。
私は高まるテンションを抑えつつ、少し冷静になって、縦の頷きを足した。ミヒロが発言待機する時間が珍しかった。
待つというより、むしろ発言機会を虎視眈々と狙っている段階だった。旧友は、ちゃんと価値観を取捨選択する性格だ。
だから、私が選べずにいる1つの問題の伝え方を迷っているようだ。
相手の名前を呼べていない。
頑張れば、恥ずかしがりやの旧友でも私の名前を呼べるのに。
私は、意識的にホームズさんを名前で呼んでいない、という問題がある。
夏期講習後、高校から自転車を2人で走らせた。
雨は止んでいたが、黒く濡れたアスファルトの道が見える。 秋田県道2号大館十和田湖線、通称、樹海ラインは、ずっと田畑と 木々の道で、秋田らしい素朴な場所だ。 私の自宅から少し離れた雪沢地区のミヒロの家に寄った。そして、旧友は袋を何個か私の自転車籠にぶち込んだ。
「レナっこ、レナっこ、レナっこッ!」
「うるへぇ、馬鹿けッ!」
ホームズさんの名前を叫んで、笑顔のミヒロは私を煽った。とりあえず、私は軽く怒る。
そもそも歪な出会い方をしてしまって、私がホームズさんを特別視している。それにミヒロは気づいた。
そして、今年の春に起きた私とミヒロの喧嘩が引き金になっていることも、旧友が気にする一因なのだ。ただ私ほど、旧友はホームズさんを特別扱いしなかった。
その辺は、価値観の取捨選択が出来る旧友を羨ましいと思った。私には、越えるべきハードルがまだ高い気がする。
不安な顔になっていたのか、旧友は悪戯な笑顔でまた煽った。「ソナ、あたしのこと、ミーちゃんって呼ぶ方が楽かもなぁ」
「あーもー、そのミーちゃん、ホントしつけぇな。でも、ありがと」
「早く帰りなよ。お前は今できることがあんだろう。まずはそれからだ」
「んだな。へば、まんつ」
「おう」
半分、大声で誤魔化しながら、私はミヒロへの感謝を口にした。 喧嘩から仲直りして良かった。本当に今、助かっている。
レ……、ホームズさんのおかげだ。
私は自転車のペダルを必死に漕いだ。早く家に帰ろう。
些細な問題よりも、梅雨終わりの景色よりも、今できることがある。風景を見るよりも、その先の景色を見たいから。
私は今を懸命に駆けたい。
いずれ今が、ひと夏の思い出に変わるまで。
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