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秋田の夜空を翔る星の謎を追え!【推理編】
しばらくディーゼル音を聞きつつ、北秋田の大自然を眺めることになる。
合川の森林、米内沢を越えると山が大きく見えてくる。唸るディーゼル車。田畑を沿うように走り抜け、トンネルも超える。
山間の地点、ここが阿仁合駅であった。阿仁合駅は有人駅で、駅員さんに運賃を精算してもらった。
外に出ると、4と4が合わさった駅舎が見える。しあわせ。なるほど、縁起がよさそうだ。
ホームズさんは駅外にある『しあわせの鐘』を叩き続ける。どれだけ幸せを欲しているんだ。
すると、怪人しあわせの鐘叩き女エルフさんに、カメラのレンズを向ける男性がいた。
「レナ、久しぶり~!」
「やめなさい、らいり」
男性にカメラのシャッターを何度か押させてから、芸人さんのように景気良く頭をスッパ叩く女性がいた。
女性の動作は大きいが、声は淡々としていた。
「あ~、レイアさ~ん。何で怒っているの~?」
「他人をヒトと認識してカメラを向けないからです」
「お~、データ容量の心配してくれるの~。じゃ、やめる!」
「そうじゃ……な……いけど、まぁいいか」
独特の雰囲気で、阿仁合の男女が迎えてくれた。
彼らは去冬にホームズさんがお世話になった方々のようだ。今回の件も、その縁である。
カメラが趣味で対人距離が独特な男性が、津谷来里さん。阿仁の風景を撮っているうちに、流れで移住していたらしい。
行動力がある分、声が小さい女性は、斉藤怜亜さん。若手の農家さんらしく、らいりが外の女子に手を出さないように監視で来たとのこと。
ホームズさんに促されて、私も軽く自己紹介をした後、これから何をするか尋ねた。
「これから何をするんですか?」
「あ~、寝るんだよ~」
「ふぇ?」
「夜を待たないと……ね」
「ふへぇ?」
ライリさんは寝ると言い、レイアさんは夜の行事だと言った。
何のことか分からない私は、良からぬことを想像して顔を真っ赤にした。
そこに助け舟。ホームズさんが笑顔で、私の手を握った。
「今夜、星を見に行こう」
「最初からそう言えし~!」
反射的に、私は頬を膨らませた。
ホームズさんのドラマチックな演出が逆効果になっている。
確かに夕空ではあるが、まだ夜空には程遠いので、寝て待つだろう。
夜を待つのは、星空を待つので当たり前だ。
大館でも星は見えそうなものだけど、森吉山の麓まで来たわけがある。
「光害が少ない」
「星空バカの言う通り、阿仁は田舎です。都市部から離れています」「レイアさんは僕のことバカって言うけど~、君たちのことを心配で付いてきた辺り~、どっちが優しさあまってバカなんだろ~」
「女子高生を誘う、あなたの節操を心配しているんです」
「阿仁の星空は魅力的だし~。それは誘うだろ~?」
「そっちの方の意味で言っ……てない。でも、間違ってないからいいや」
微妙に阿仁の男女は会話がかみ合っていない。ただ、多少のすれ違い会話が許される土俵であることを私は確認できた。
つまり、今夜こそホームズさんをレナ呼びするチャンス到来なのだ。行け、私……ッ!
「レ……」
ぐ~。
法界折を全部食べたはずの私のお腹が鳴った。声はかき消された。
ホームズさんが頷いた。そして、阿仁の男女ペアはこういうことを無言で察してくれる。
笑って茶化すことはなかった。
「うん、腹減ったな」
「そんな気がしたので、たくさん作ってきました!」
「山には虫がいるし、暗がりでは食べにくいから、今食べようか~!」
重箱にぎっしりとおにぎりが詰まっていた。
阿仁、至れり尽くせり!
レナと名前を呼ぶより、まず食欲が勝ってしまった。
ぐぬぬ、無念。
私たちは駅の休憩スペースで、おにぎりを食べつつ、夜になるのを待った。
そのうち日が沈んで、辺りが暗くなってきた。
ヘッドライトを付けたライリさんが、私たちに何かを向けた。
謎の煙で、半分寝ていたホームズさんは起きた。
「よ~し、ふぁいあ~!」
「にょわっわわーッ!?」
レイアさんが別の缶で、私に虫よけスプレーをかけてくれた。
阿仁合駅から見える夜空は、今までで一番澄んで見えた。これから車で向かう森吉山阿仁スキー場は、夜の星が見える一大スポットである。
「阿仁マタギは、星空を頼りに方向を見失わず歩き続けた」
「何億光年離れていても、過去から現在を照らしてくれる~。歴史をつないでいくのも、星のロマンさ~」
阿仁の男女ペアは、格好いい台詞をさらっと語る。
たまにスイッチが入ったホームズさんの台詞に似ている。彼女はボーと星を眺めていた。今は、そういう夢の時間だ。
つづら折りの山道を車が進んでいた。
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