秋田へようこそ探偵エルフさん7-2

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秋田涼夏奇譚 泰衡と風穴の謎を追え!【推理編】

前回・・・秋田へようこそ探偵エルフさん7-1

“ある夏の朝のこと。

一人の少女が田んぼ道を日課のランニングで、扇田おうぎた駅へ向かっていた。

 小さい橋の向こうに、神社の白い鳥居があることに、ふと少女は気づいた。

 へぇ、あんなところに神社があったんだぁ。

 少女は走って向かうことにした。”

「終わった? 話、終わった?」

「ソナ、その手の感じだと、耳が塞がっていない」

「良いから……続けて……」

 私は、怖い話には興味があるけど、ちゃんと真っ直ぐ見られないし、聞けないという捻くれ者なのだ。

 ミヒロの話は、まだ怖い要素がない。

 不思議そうに、小首を傾げながら、旧友はまた語り出す。

“ん。変わった神社だ。

 少女は白い鳥居に一礼して、神社の中に入る。

そこには……!!”

「ぎゃあああああああッ!!」

「ソナ、うるさい」

 私の正気度が一気に下降した。さんちぴんち、さんち直送。

 冷たい目で、ミヒロは私を睨んだ。ここからが話の本番なのだ。

 何があったんだい? と、探偵エルフさんは興味津々の目である。

 旧友は、ためらうことなく、口を開く。

“綺麗な花。こんな朝に咲く花があるんだ。

 池に咲く花かぁ。

 明日も見に来ようっと。

 少女はそれから毎日、花の観察に来た。数日間で花は散ってしまった。”

 私は猫のような目になって、真逆の心境になり、沈黙した。

 ニヤニヤしている旧友。そして、探偵エルフのレナは、考え込む仕草を見せる。

「うーむ。この季節に、朝の池に咲く花だと、蓮だろうか?」

「正解だ。扇田より二井田にいだ側にある、錦神社にしきじんじゃの話だ。もう時期は過ぎたんだけど、レナっこは花好きだろう?」

「あぁ、ミヒロ君、良い情報をありがとう。怖い話ではなかったようだ。ソナタ君、良かったな」

 震えるよりも石になりたいマジで。

 猫目で地蔵化している私に、レナは微笑みかけた。

 その顔がずるいけど、少し気が緩んだ。

 その瞬間を狙って、ミヒロがまた語り出す。

「錦神社は、にしき様を祀っているんだ。簡単に説明すると、首から下の胴体」

「……ッ!?」

 私は怯えた目を、真顔のミヒロに向けた。

 胴体。ということは、何か事件があったのだろうか。

 ジャパニーズテイストが強い事件。和風ミステリー。

何だか、それこそ探偵の金田一耕助きんだいちこうすけ的な八つ墓村感がしてきた。

 違う意味で、背筋に悪寒が走る。

 手を横に振って、ミヒロは笑った。

「はっは。違う違う。この神社は元々、藤原泰衡ふじわらのやすひらけ公のお墓だ。川田次郎かわたのじろうが、泰衡公の首を持っていったから、後に残った胴体を錦の直垂に包んで、里人が埋葬したんだよ」

「藤原……うーんと、確か、平安時代の奥州藤原氏おうしゅうふじわらしのことかい?」

「流石、レナっこ。そうそう。平泉ひらいずみから、ここら辺まで逃げて来たらしい」

源頼朝みなもとのよりともの軍からか。なるほど、では蓮は……」

 石化の呪いが解けない私は、猫目地蔵のままだ。
ちょっと歴史に疎いので、内容に頭が追いついていない。

 猫目をぐぐっと動かし、まとめようとしているレナに訴えた。

 つまり、どういうこと? 3行で説明して?

 

後に鎌倉幕府を開く、源頼朝の軍と、岩手県平泉いわてけんひらいずみに本拠地を置いていた、奥州藤原氏4代目の泰衡公が戦って敗れた。

追っ手から逃れた泰衡公は、出羽国比内郡でわのくにひないぐんの一角まで逃げ落ちていた。

 味方であった河田次郎の手で、死後の泰衡公の首が頼朝まで届けられ、その胴体は里人がこの比内郡の地に埋葬した。

 いつもより長めの3行で説明を受けた私は、ようやく納得した。

平泉は世界遺産の中尊寺ちゅうそんじがあるはずだ。

 金ぴかのお寺だ。

 そのお寺と、大館市に、そんな関係があったのか。

 レナが言おうとしていたことを、ミヒロが補足した。

 蓮の話だ。

「泰衡公の首を納めていた桶の方から、古代蓮の種が見つかったんだわ。中尊寺蓮として育てられていたのを、大館市が株分けしてもらったらしいぜ」

「んだったのが~。ご縁だすなぁ~」

 何だか、そういう話は良いなぁ。

 昔の比内郡の人も優しいし、今の平泉の方たちも優しい。

 ただ今度は、レナの顔が困惑している。

 私たちの身が凍るような一言をつぶやいた。

「ところで、涼しくならないのだが? 歴史の話も、住民同士の繋がりも、中尊寺蓮の話も、すべて素敵だが、それはそれだろう。もしかして、これで終わりかい?」

「ご、ごもっとも~。ぐふ、イギリス人は冗談がブラック。ソナ、何か出して」

 慌てたミヒロは、私に道具を出すように求めた。

 猫型ロボットではない。四次元ポケットはない。そんなものはない。

 私は、ただの秋田県人。

 ただ地元民なので、夏でも涼しい場所は知っている。

てってれ~! 長走風穴ながばしりふうけつ~!

「夏に涼しい場所だば、長走風穴だ!」

「お、おお~! 高山植物の盛りはたぶん過ぎているけど、ナイスなチョイス~!」

 当然、レナはきょとんとしている。辛口のミヒロには、私の選択が好印象だった。

 そろそろ夕暮れになってきた。

 明日の日中に、長走風穴へ私たちは向かうことにして、本日はお開きになった。

 すでに外は暗い。今晩も、なかなか暑い夜だ。

 少し気温が下がったのか、虫の音が聞こえる。

 大館市の知らない場所へ行けることで、レナは興奮気味に見えた。

 一方で、私はすぐに寝てしまっていた。

 今日、5分で涼しくなる話には失敗した。

 だけども明日は、5分以上涼しい体験が出来るだろう。

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【つづく】

秋田へようこそ探偵エルフさん7-3

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