【広告・PR】
秋田涼夏奇譚 泰衡と風穴の謎を追え!【推理編】
“ある夏の朝のこと。
一人の少女が田んぼ道を日課のランニングで、扇田駅へ向かっていた。小さい橋の向こうに、神社の白い鳥居があることに、ふと少女は気づいた。
へぇ、あんなところに神社があったんだぁ。
少女は走って向かうことにした。”
「終わった? 話、終わった?」
「ソナ、その手の感じだと、耳が塞がっていない」
「良いから……続けて……」
私は、怖い話には興味があるけど、ちゃんと真っ直ぐ見られないし、聞けないという捻くれ者なのだ。
ミヒロの話は、まだ怖い要素がない。
不思議そうに、小首を傾げながら、旧友はまた語り出す。
“ん。変わった神社だ。
少女は白い鳥居に一礼して、神社の中に入る。
そこには……!!”
「ぎゃあああああああッ!!」
「ソナ、うるさい」
私の正気度が一気に下降した。さんちぴんち、さんち直送。
冷たい目で、ミヒロは私を睨んだ。ここからが話の本番なのだ。
何があったんだい? と、探偵エルフさんは興味津々の目である。
旧友は、ためらうことなく、口を開く。
“綺麗な花。こんな朝に咲く花があるんだ。
池に咲く花かぁ。
明日も見に来ようっと。
少女はそれから毎日、花の観察に来た。数日間で花は散ってしまった。”
私は猫のような目になって、真逆の心境になり、沈黙した。
ニヤニヤしている旧友。そして、探偵エルフのレナは、考え込む仕草を見せる。
「うーむ。この季節に、朝の池に咲く花だと、蓮だろうか?」
「正解だ。扇田より二井田側にある、錦神社の話だ。もう時期は過ぎたんだけど、レナっこは花好きだろう?」「あぁ、ミヒロ君、良い情報をありがとう。怖い話ではなかったようだ。ソナタ君、良かったな」
震えるよりも石になりたいマジで。
猫目で地蔵化している私に、レナは微笑みかけた。
その顔がずるいけど、少し気が緩んだ。
その瞬間を狙って、ミヒロがまた語り出す。
「錦神社は、にしき様を祀っているんだ。簡単に説明すると、首から下の胴体」
「……ッ!?」
私は怯えた目を、真顔のミヒロに向けた。
胴体。ということは、何か事件があったのだろうか。
ジャパニーズテイストが強い事件。和風ミステリー。
何だか、それこそ探偵の金田一耕助的な八つ墓村感がしてきた。違う意味で、背筋に悪寒が走る。
手を横に振って、ミヒロは笑った。
「はっは。違う違う。この神社は元々、藤原泰衡公のお墓だ。川田次郎が、泰衡公の首を持っていったから、後に残った胴体を錦の直垂に包んで、里人が埋葬したんだよ」 「藤原……うーんと、確か、平安時代の奥州藤原氏のことかい?」 「流石、レナっこ。そうそう。平泉から、ここら辺まで逃げて来たらしい」 「源頼朝の軍からか。なるほど、では蓮は……」 石化の呪いが解けない私は、猫目地蔵のままだ。
ちょっと歴史に疎いので、内容に頭が追いついていない。
猫目をぐぐっと動かし、まとめようとしているレナに訴えた。
つまり、どういうこと? 3行で説明して?
後に鎌倉幕府を開く、源頼朝の軍と、岩手県平泉に本拠地を置いていた、奥州藤原氏4代目の泰衡公が戦って敗れた。 追っ手から逃れた泰衡公は、出羽国比内郡の一角まで逃げ落ちていた。
味方であった河田次郎の手で、死後の泰衡公の首が頼朝まで届けられ、その胴体は里人がこの比内郡の地に埋葬した。
いつもより長めの3行で説明を受けた私は、ようやく納得した。
平泉は世界遺産の中尊寺があるはずだ。金ぴかのお寺だ。
そのお寺と、大館市に、そんな関係があったのか。
レナが言おうとしていたことを、ミヒロが補足した。
蓮の話だ。
「泰衡公の首を納めていた桶の方から、古代蓮の種が見つかったんだわ。中尊寺蓮として育てられていたのを、大館市が株分けしてもらったらしいぜ」
「んだったのが~。ご縁だすなぁ~」
何だか、そういう話は良いなぁ。
昔の比内郡の人も優しいし、今の平泉の方たちも優しい。
ただ今度は、レナの顔が困惑している。
私たちの身が凍るような一言をつぶやいた。
「ところで、涼しくならないのだが? 歴史の話も、住民同士の繋がりも、中尊寺蓮の話も、すべて素敵だが、それはそれだろう。もしかして、これで終わりかい?」
「ご、ごもっとも~。ぐふ、イギリス人は冗談がブラック。ソナ、何か出して」
慌てたミヒロは、私に道具を出すように求めた。
猫型ロボットではない。四次元ポケットはない。そんなものはない。
私は、ただの秋田県人。
ただ地元民なので、夏でも涼しい場所は知っている。
てってれ~! 長走風穴~!「夏に涼しい場所だば、長走風穴だ!」
「お、おお~! 高山植物の盛りはたぶん過ぎているけど、ナイスなチョイス~!」
当然、レナはきょとんとしている。辛口のミヒロには、私の選択が好印象だった。
そろそろ夕暮れになってきた。
明日の日中に、長走風穴へ私たちは向かうことにして、本日はお開きになった。
すでに外は暗い。今晩も、なかなか暑い夜だ。
少し気温が下がったのか、虫の音が聞こえる。
大館市の知らない場所へ行けることで、レナは興奮気味に見えた。
一方で、私はすぐに寝てしまっていた。
今日、5分で涼しくなる話には失敗した。
だけども明日は、5分以上涼しい体験が出来るだろう。
【広告・PR】