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秋田涼夏奇譚 泰衡と風穴の謎を追え!【事件編】
秋田の夏は短いという。
体感としては、3週間程度。
梅雨明けが、全国的に最後の方。
それでいて、秋の紅葉が全国的に最初の方だ。
冬は、雪深く寒くて暮らしにくい。
夏も、なかなか高温多湿だ。
これが北東北地方、秋田県が直面する現実だ。 私の住む大館市は、山々に囲まれた、いわゆる盆地である。盆地の良いところは、山を越えて冬の湿った雪雲が侵入しにくい。
冬の秋田県内でありながら、比較的、緩い雪の降り方だ。
それでも大館の積雪が増えてきたのは、海水温の上昇による湿度が高い雪雲の影響が少なからずある。 季節を逆に、夏の場合、大館は蒸し暑い。この盆地の悪いところは山囲いのせいで、内側で発生した熱を逃がしにくい。
今まさに、夏の最中。
毎日、山籠もりした凄まじい夏の蒸し暑さなのだ。
さてさて。
今日も、夏の暑さが困るレベルの大館市である。ヤナギ家では、脱水対策として、喉が渇く前に水分を強制的に飲んでいる。
もちろん、同居人のレナ=ホームズも例外ではない。
高校の夏休みも後半になり、夏課題の他に、試験対策も必須になる頃だ。
座敷に机を置き、扇風機で冷風を浴びながら、私とレナは2人で勉強中だ。汗が出ない時ほど、水分補給だ。
エルフのレナにとっては、難しい勉学より、暑さより、水分を摂る行為がもはや罰ゲームのように感じているようだった。
「ソ、ソナタくん、私、この問題を間違っていない。だから、水分は摂る必要ないんじゃないだろうか」
「……」
塩が入った麦茶瓶の取っ手を持つ私は、すぐに返事をせず、まず今の状況を観察した。
見るに、今のレナはわざと顔色の悪い雰囲気を出している。
不平不満だけでなく、その口数も多い。
比較対象は、夏休みに入った直後の布団で寝込むレナの姿だ。
ああいう状態にさせた責任を私は感じていた。
では、今どうするか。
無言のまま、コップにお茶を注いだ。
絶対に、私は視線を逸らさない。レナは、私の目力に押されて、水分を摂った。
「君は、私の姉より、厳しいなぁ。たまには、甘やかせてくれないか」
「じゃ、何せば良んだ?」 「ご褒美に撫でて」「はいはい」
居候エルフさん、自分の頭を寄せて来た。 何のご褒美、とは流石にもう思わない。 頑張っているから、頭を撫でろという魂胆だろう。それに、レナが次女で、甘えたがりだということを、最近になって知った。
一方で、私は1人っ子だ。
縁戚のお姉さんくらいしか、歳の近い身内はいない。 だから、自宅で居候の同級生の面倒を見るのは初めてだ。こんな状況を今まで想定していなかった。
だけど意外にも、私の中にあった母性は大いに満足しているようだ。
そんな訳で、私は彼女の頭を撫でることが出来ていた。 透き通ったエルフさんの金髪はシルクのように綺麗だ。その時、家の玄関ドアベルが鳴った。
昼下がりの田舎の夏。
非常に高温で出歩く人がいないという思い込み。
それで、レナの面倒だけ見ていて、素の私を出していた。
はっとした私はモードを切り替え、レナの頭を片手で突き放した。
名残惜しそうに、エルフさんの長い耳が小さく震えていた。
まるで自己主張の強い猫のようだ。
だが、私は我慢する。今日の分、甘やかしは終了とする。
ドタドタと、廊下を駆けて行き、私は玄関を開けて応対した。
赤髪の低身長なヤンキー娘、間違いなく、私の旧友ミヒロであった。
雪沢地区から、この暑い中、自転車で来たのか。お互いが相手の現状を無言のまま察すること、それが今日のファーストコンタクトだ。
手土産の小玉スイカを1玉つき渡された。
この粗暴な態度が中学男子っぽくて、容姿と相まって、ミヒロが性別を勘違いされる要因だろう。
以前と同じく、やはり私は旧友を怒った。
「ん」
「ん、じゃねぇ。せば今、食うんだが?」
「冷えていれば、な」
「私がスイカ切んだが?」「んだ。まず、トイレお借りしまーす」
「はぁ……。どーぞ」
あいつ、玄関で靴を脱ぐと、さっさとトイレに逃げ込んだ。
ただ、靴は向きを変えて揃えて置くあたり、憎みたいけど憎めない。ミヒロは興味ないことは本当に全くしない。
それでも、祖父と同居しているので、旧友は最低限度の生活ルールを守っている。
スイカを切り終えて、皿に盛って、お盆に乗せて両手で持つ。
ようやく、私は座敷に戻る。ミヒロは、勝手に塩茶を飲んでいる。
畳の上、レナはうつ伏せに伸びていた。
こいつら、全く勉強する気ないようだ。
「勉強さねの?」
「勉強はしない。夏期講習分の課題も終わって、夏休み始めに出されていた課題も終わった。内容も覚えただろ。これ以上、何をすればいい?」
「上さいる奴の言い分だども、好きでね」
「数字で判断する社会の勝者だからな、あたし」
「あい~、めぐしぇな」
ミヒロの言い分が、ド正論なのはいつものことなのだ。
私に対してだけ辛辣な訳でなく、誰にでもこの言い方だ。
ミヒロには独自の社会ルールがある。
うつ伏せ状態のレナは、ツインテールが上に向いているので、クワガタのように見えた。
金色クワガタは、這いつくばったまま語る。「すいか~。すいかをくれ~」
私も、ミヒロも、これには負ける。
流石に、見ていた2人とも吹き出して笑った。
スイカを乗せたお盆を落としそうになった。
勉強は中断して、3人で縁側に座る。
スイカを含めて、みんな着地した。
縁側から見える庭の景色は、暑さか熱気か、揺れて見える。
なるほど、立って歩くと危ない感じがある。
水分、補給せよ。
それを直感でも分かる。
食べごろのスイカは、種さえも飲みたくなるほど甘かった。
しこたま、旨。食い気が暴走気味。
食べるのに必死だったせいか、私の汗腺が戻って来た。
汗が少しずつ復活して出てくる。
隣の2人は、会話が始まっている。
「日本らしい夏だ」
「レナっこ、年長者」
「私は64歳だからなぁ」
「人間換算したら16歳じゃん」
「まぁね」
「ぬぎぃぜ。よし、じゃあ、5分後に涼しくなるような話をしよう」
カラン。
2人の会話を聞いていた私は、手と口を止めた。
タイミングよく、空のコップで溶けた氷が鳴らす音に、驚いて飛び跳ねた。
あと5分。
そそそ、それを耐えれば、怖い話は終わるのだろうか。
終わるんだよね。
私は両肩を震わせて、真っ青な顔で、2人を見ていた。
事情を知っているミヒロは、手を叩いて、大爆笑している。よく分かっていないレナは不思議な顔で、言葉にできずに口をパクパクする私を見ていた。
「うーん。ソナタ君は、怖い話が苦手なのかい?」
「傷口さ塩をぬらねぇでよ」
「いや、こういう場合は、塩を盛るんじゃないのかい」
「んだばって。今の話、除霊でね」
暑さのせいか、天然ボケが発動しているレナは、1テンポ分、話がずれている。
推理が脱線し、ぽんこつ探偵エルフになっていた。
気が利くのだから、怖い話をミヒロがしたいのを止めてくれ。
私、怖い話は無理だ。
ミヒロはどこから持ってきたのか、小皿に2つ塩を盛ってきた。
あぁ、やる気満々。
も~、高校生って、すぐ悪ノリする。
私は座ったが、全く別のことを考え始める。
そんな中、隣の2人。
ミヒロは、そういえば……と話し出した。
探偵エルフさんは、地方色の濃い話に目を輝かせている。
涼しくなるか別として、秋田はローカルな奇譚が多い。 主旨は分かったから、あと5分だけ我慢だ。【広告・PR】
