秋田へようこそ探偵エルフさん10-1

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腹TUEEEE! きりたんぽの謎を追え!【事件編】

前回・・・秋田へようこそ探偵エルフさん9-3

 すっかり、朝晩は冷え込むような季節だ。

 秋は思考が一瞬止まる時期だ。そして、別の方へ歩き出すこともある。

 その開き直りに似た感覚は、たぶん転換期だ。

 彼岸を越えたからだろう。

 昼夜の長さが逆転を始める。来年の春にまた長さが反転するまでだ。

 だから、今からまだ見ぬ春へ希望を持って、冬を越えていく準備をそそくさと始めようと思えるのだ。

 来週には、秋田県内は日本各地でも早い方で、紅葉を楽しめる行楽シーズンになる。

 少しだけ先に、今年の終わりを風景が知らせてくれる。

 稲刈りがほぼ終わっているのだ。

 何となく生き物の声音が小さくなり、活発だった動きも緩やかになっている気がする。

 虫も、植物も、もちろん人間を含む動物も、だ。

 夏の元気は、いったい何処に行ったんだろう。

 毎年、定期的な戸惑い。悲観的になり、身体の重さに朝からうんざりする。

 それでも、秋の恵みを旬の食べ物として口に入れる幸せを感じる。

 身体が回復して動けるようになると、儚くも美しい秋の景色に目を輝かせている。

 腹が満たされて、心が癒された。

 さて、得たエネルギーで何を始めようか。秋らしいアーティスティックな時間を過ごす。

 私にとって、まだスタートが始まったばかり、最初の分岐点なのだ。

この大館おおだても、すっかり秋になった。

 雨が降る度に、毎日の気温が下がるようだ。夏はそうやっているうちに去った。

 朝の冷えに、少しばかりムッとする。生まれたときから秋田県民の私でさえ、環境の厳しさを感じた。

 探偵エルフさんのレナ=ホームズが、私の家に居候してから、まだ数か月だ。

 今、秋田の底冷えは、在住者感覚で季節の変化を読む限り、まだ軽い方だ。

 けれども、イギリス人のエルフさんには、なかなかの洗礼というわけだ。

 ミノムシなのか、簀巻きなのか、レナは布団にくるまって震えていた。

 彼女は珍しく、朝から少し怒りモードで、だんだんと語尾に力が入るようだ。

「ソナタ君、おはよう。寒い、とても寒い、寒すぎるんだがッ!」

「おはよう、レナ。ちゃんと飯食ままけ。せば、温かくなる」

「それは分かっている。けど、同じルーティンは楽しくないし、美しくない」

「朝から哲学的に、ごんぼほるなで……」 

「ねー、ねー、秋らしいことがしーたーいーッ!」

 布団から生まれた、妖怪ごんぼほりエルフをどうにかしたい。

 レナは大人しく耐えることを一切しなくなった。私も若干、毒気ある母親的なツッコミが出るようになった。

 これがお互いの素をさらけ出す怖さを越えた結果である。

 お家モードのレナを見られるのは、私だけだ。

 彼女がだらしない、幼稚な感じが、私には保護欲を掻き立てられてたまらない。

 おっと。

 優越感よりも思考タイムだ。

 うーん。お子様モードのエルフさん、その要望を満たす案がないか。

「たんぽまつり……もう今週だったが……」

短穂たんぽ? 湿原に生えている蒲の穂のことかい?」

「たんぽは、そのたんぽじゃねぇなぁ」

「どのタンポ?」

「きりたんぽまつり、だ。秋らしく、んめもので!」

ハーベストフィスティバル収穫祭みたいなものか。日本だし、八百万だし、たんぽ神を祀るのか? いや、神様への感謝は、大館神明祭でもやったような?」

 最近、秋のストレスを解放したレナ、ポンコツ推理がひどい。

 今朝の会話から、すでにツッコミどころ満載なのだけど、イギリス出身のエルフらしい発想をしてくれる。

 大館民の私としては教えがいがあるので、そんな彼女でも可愛げあると思う。

 とりあえず微笑ましい。

 1つ1つ整理するのが、探偵の助手の役目。

 まず、ハーベスト・フィスティバル。

 ハーベストムーンは、イギリスの文化だ。日本では、仲秋の名月にあたる。

 冬の到来の前に、秋の食料の収穫を感謝する祭りである。

 教会や学校などで、人々が集まり、持ち寄った食べ物でお祝いする。

 食べ物で多いのは、缶詰やジャム、コーヒーなど長期保存可能なもの。

 余ったものは、慈善団体などに寄付される。

 たんぽ神を連想したのは、英国式な教会でなく、日本的な八百万の神をレナなりに想像した結果だ。

 そもそも仲秋の名月は、9月上旬~10月上旬の満月の日なので、10月開催イベントでないこともある。

 なので、論点がずれた解答だ。事実、たんぽ神と言われて、私は笑いが吹き出しそうになった。

 ちなみに、レナの言った短穂は、蒲の穂が短いことを指す。

 私の想像したものとは全く違う。

 まず、食べ物だ。そして『きりたんぽ』と通例で言うのが全国的な慣用表現である。

 だが、地元民は『たんぽ』となぜか呼んでしまう。こればかりは、育った環境だろう。

 探偵のミスリードを訂正しよう。助手の私ならば、こう結論づける。

 きりたんぽ、とは短穂に形状が似た食べ物で、それを切った状態だ。

 さて、秋田名物きりたんぽ。

 ご飯を半分潰し、木の棒を芯にして握り付け、炭火などで炙った郷土料理である。

比内地鶏ひないじどり、せり、まいたけ、ごぼうなどの具材と一緒に、切ったたんぽを煮込んだものが、大館を発祥とする、きりたんぽ鍋なのだ。

 今現在、秋田県内において、ハレの日の料理として各家庭でもお店でも食べることがある。

 この正解の内容を教えることは、私にとって簡単だ。

 ただレナさん、情報量に耐え得る状態なのか、そもそも正確に理解できる状態なのか、私には全く分からないのだ。

 ボーとすることが多いし、ポンコツな発言も多いし。

一時的な疲れだと思うけど、今のレナは探偵エルフじゃない、うさんくさい状態になっている。

 私は少しの間、見守りモードでいたい。今は心配だけど、未来のために心配しすぎないように。

 彼女が自分自身で気づいたら、きっと探偵らしい振る舞いに戻りやすいと思うからだ。

 秋らしいイベント参加を、レナが希望した。

 その結果、10月第2週の週末、私たちはニプロハチ公ドームで開催される『本場大館きりたんぽまつり』へ現地調査に向かうことになった。

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【つづく】

秋田へようこそ探偵エルフさん10-2

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