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群青の心境と黄金の自転車道の謎を追え!【解決編】
傍らで、探偵エルフさんとシアが目を合わせていた。
表情を抑えているようなエルフさんは、利き手を硬く握りしめてから、重くなった口を開いた。
シアの返事は、台詞染みた棒読みだった。
「シアくん、次の目的地は、独鈷大日神社かい?」「うん」
「じゃあ、ソナタくんと行ってくるよ」
「うん」
青春の戸惑い。各々の青さが、これほど重なるのか。
初めてレナが、私の意見を尊重してくれなかった。
シアはミヒロに付き添い、その場に残った。
離脱者が出た。自転車が2台になった。
犀川沿いから、東館方向に。レナと私は無言のまま、自転車を走らせていた。秋の風景は、川も田んぼも、街路でさえも、全て綺麗に見えた。
だからこそ、無垢な自分の青さが、己の心に刺さってくるのだ。
少し水分補給と休憩を挟み、秋田県道22号線を、大葛・鹿角方面へさらに走る。味噌内も、独鈷入口も、緩い坂道とともに抜ける。
比内の田んぼは、今まさに黄金色だ。
もう数週間後かな。すでに収穫が近いのかもしれない。
早くも、秋の匂いを感じる。
身体が弱いレナは、何も文句を言わずに、自転車を走らせている。
自分の心の中にある引っかかりを外せないので、私は何も言えずに、ただ悶々としている。
疲れた? 大丈夫? そんな一言を伝えられない。
集落の中、坂道を上り、大日神社の鳥居の前まで2台の自転車は来た。
大日神社は、『ダンブリ長者伝説』の縁がある場所だ。
大館市比内の独鈷と、鹿角市の小豆沢に、真言密教の大日如来を祀る神社がある。今から1500年以上前の昔話。『ダンブリ長者伝説』
独鈷村に両親を亡くして貧しくも懸命に暮らす娘がいた。
ある日、その娘の夢に、大日神が現れてお告げした。『川上に行けば夫と出会うだろう』
娘は川上の小豆沢で、木を切っていた若い男と出会い、夢のお告げもあり結婚した。
夫婦は懸命に働いたが、暮らしぶりは改善しない。
ある正月の夢、また大日神が現れた。
『もっと川上に住めば福あり』
夫婦は、川の源流である平又に移住し開墾した。ある暑い夏の日、夫は木陰で休んでいた。いつの間にか、居眠りしてしまったようだ。
そこに、尻尾に酒をつけたダンブリが飛んできて、夫の口に止まった。
その酒はあまりにも美味しく、驚いて夫は目が覚めた。
ダンブリが飛んで行った方向へ夫婦は向かった。
岩陰に泉があり、こんこんと湧いている。
その水は、味わったことがないような美味しい酒であった。
その泉の酒は万病に効いた。たちまちに夫婦は、大金持ちになったそうだ。
話はまだ続くが、今回はここまで。
因みに、ダンブリとは昆虫のトンボのことだ。
現在に話を戻そう。
鹿角市の大日霊貴神社では、大日堂舞楽が毎年1月2日に奉納されている。昔からの信仰心が、伝統として今の地域に根付いているのだ。
神社へのお参りの願い事は、例えば、世界で1番有名人になりたいであれば、どう自分が努力していくかと誓いを立てる必要がある。
ただ有名人になりたいと言うだけで、私は特に何もしないですけど、夢を叶えてください、だと願いがまず叶わない。
それはそうなのだが。
煩悩というだけあって、悩みは晴らさなければならない。
その悩みの種は、誓いや願い事の前に立ちはだかる、自分自身が作った最強の敵だ。
自転車の果て。そんなことを考える余裕さえ、最後には尽きた。
今回、自転車の旅は、欲望の奥底に沈んでいるものを少しだけ見せてくれた。
それに気が付けただけで、私はただ感謝している。
独鈷の大日神社。
私は健康を願った。
自分の? 他人の? そんな些事は覚えていない。
帰りの自転車の道は、行きの道より早く感じた。重なった青さが澄んでいた。少しだけ心が晴れたからだろう。
道の駅ひないまで、何とか自転車を着けた。脚が重たい。ただ心地よい疲れを感じた。
レナが瓶の炭酸飲料を1本くれた。
100年の歴史を持つ、美郷町のニテコサイダーだ。こんなに疲れているときに、炭酸水は喉の負担にならないのか。杞憂だった。
口当たりが優しいニテコサイダーは、ぐびぐびと飲めた。
「んめな、これ」
「考えるよりも動いてみた、その報酬さ」
「シアやミヒロの話を受け入れたんでねぇの?」
「そこまで考えず、ただ思うままに動いただけさ。論理的に考えたところで、答えがなかったからね。だから、自分らしくないやり方を選んだ」
「んだったのが」
レナの言っていることを、今日一番に受け入れることが出来た。
彼女、探偵エルフさんは、たまに変なときがある。
体力もなく、虚弱な体質なのに、タイミングが合うと人並み外れて動けるときがある。
そうそう。
春の出会いのとき、早口から桂城公園まで、1人で歩いてきたらしい。今回の比内自転車の旅では、私も体感してしまった。
疲れも含めて、何かを一緒に越えたのだ。
抱えていた悩みが薄れるくらいに、黄金の道を私たちは、ひたすら駆け続けた。
だから、幸運の切れ端に気づいて、群青の心境に至ったのだ。【広告・PR】