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拾えなかった落しものの謎を追え!【事件編】
私の住む秋田県大館市は、夏の最終コーナーに差し掛かっていた。秋祭りである。
9月10日と11日の大館神明社例祭は、雨祭りとして有名だ。この祭りの雨の日を超えると、一気に肌寒くなり、秋へ、そして冬へと季節が向かって行く。
ただ、今年はどうしたのだろう。
快晴かつ蒸し暑い。
夜もなかなか気温が下がらず、熱帯夜だ。
それでも、秋祭りを実感するのは、祭りばやしの音が今年も流れるからだ。
それに蜻蛉が空を行き交い、道端にコスモスが咲いているのもある。 すでに宵祭りは、前日の話だ。 各々の曳山車は、しっかりと田乃坂を越えた。依然として、天気、祭りの熱気、人々の熱狂の中ではある。
本祭りの9月11日、お昼なのだが、私たちはすごく汗ばんでいた。もちろん、それだけが汗をかいている理由ではない。
わっしょい、わっしょい。
全身全霊で祭りを楽しんでいる顔。
それが私には、眩しいばかりの表世界の住人たちに見える。 その裏側で、私たちの拙い友達関係が試されていたのだ。友人たちが、どんな重い過去を持った裏の顔をしているか。
不覚にも、私は興味を持ってしまったようだ。
過去に捨ててしまった物語を拾うか。
今は見なかったことにして捨てたまま物語を進めるか。
『落としもの』を拾うには、捨てるという漢字から二画分を、自分自身が受け入れなければならない。
私たちは受け入れ難い二画分、過去に縛られて身軽になれないのだ。
だから、拾う行為は捨てる行為より難しく、現代人にはなかなか出来ない。
大館神明祭のように、神明社の祭事と曳山車巡行をバランスよく行う必要があるのに。9月11日の私は、表裏の意識だけ高かった。
過去に拾えなかった『落としもの』を自分が拾うより、他の友人たちの過去に拾えなかった『落としもの』を彼女たちが拾う様を見たい。
自分はしないのに、他人はしてほしい。
お互いのことをもっと知りたいと言えば、もっともらしく聞こえるのだろうけど。
ただ、お互いに過去を話し合い、その天秤を吊り合わせようとは、この時はまだ思えなかった。さてさて。
大館神明社例祭の本祭りの日、昼頃の大町商店街の一角。 大町ハチ公通りの交差点では、ご当地ヒーローのコウライザーが子供たちの前で、ヒーローショーを繰り広げていた。 敵のクマデターが煽っている声と、ピンチな状態のコウライザーを応援する子供たちの声が、大町の現場に混ざり合っている。 商店街にある一店舗の壁にもたれながら、ただ純真だった子供の頃を懐かしむように、あの交差点を眺めていた。今、私たちは感傷的で、少し大人びた高校生だった。
自転車を駐輪して、すぐの場所だ。
でもなぜか、この日は待ち合わせの時間に遅刻した。
友人たちと遊ぶには始まりが悪かったに違いない。
1年1度きりの祭りなのに、浴衣の存在も忘れるくらい焦っていた私とレナは、残暑の延長線のような私服だった。
わずかな救い。
今日、私の友人たちは、お祭り意識があったので浴衣だ。
少しだけ気が利いたのだ。
シアは長身だから、浴衣を着るとよく似合う。
大町商店街を歩けば、何人かは振り返るくらい、まるでモデルさんのようだ。 一方で、足を挫いている状態の松葉杖の小娘は、同じく浴衣姿なのだが、不機嫌な顔をしている。『誰が小娘だ、あたしはミヒロだよ』
一応、私の脳内では、悪役キャラクターとしてのミヒロがツッコミをした。
目の前のミヒロは、自転車の小旅を思い出したのか、場都合が悪そうな顔をして沈黙を貫いている。私を含めて3名は、今のところ無言で、はちくんのうちわを仰いでいた。
一方で、こういうとき、重い空気感から神経質にならないのは、シアの性格が良いからだろう。
コウライザーがパワーアップする白沢獅子踊りには、観客から応援の手拍子が入る。童心を忘れないシアは、ガチの拍手だ。
裏表がなさそうなシアなら、過去の話もすんなり話してくれそうだな。
そう思いつつも、私は無言の三人衆だ。
ミヒロだけでなくて、レナも遠い目になっているのは、残念ながら他人の私では理由が分からない。
9月11日が苦手な私の心だけ、私はよく分かる。
私の母が亡くなったのは、5年前の9月11日だ。
急性の心臓病で、前触れなく母は逝ってしまった。
その年以降の祭日が、母の命日だ。
父は仏壇に手を合わせてから、1日中、仕事で籠る。
私に対して父が、私も喪に服すように、と今まで1度も強いたことはない。
葬儀の日、パニックになった私が逃げて、縁戚のお姉さんに連れられて戻ってきたのを見たらしく、母との思い出を父から口出ししなくなった。今、亡き母の話は、父から私に話されることがほとんどなかった。
そういう家族が不幸になる辛さを受け止めてくれたのは、振り返れば1人だけ、意外と旧友のミヒロだけだったかもしれない。
モヤモヤした何か得体の知れないものを、私は毎年9月11日に感じている。
近くの腹の音と、遠くの祭りばやしの音で、私は現実に戻った。
すでに、コウライザーショーが終わり、握手会になっていた。
「はっはっは、一番辛気臭い顔している奴が、一番腹減っているってか」
「うるせぇ、ヘヅネ界の怪人ミヒロ」
「お前の腹をヘヅネぐしてやろうか。おいシア、ポテト買いに行くぞ!」
「へ~い」
ふてぶてしい態度の悪役ミヒロは、配下のシアを連れて、一区画向こうの店アラクランまでポテトを買いに行ってしまった。
あぁ、旧友たちに逃げる口実を、私は与えてしまったのか。
気まずい。
目の前の祭りに対して、私と彼女はまだ無言だった。
おい、私たちの9月11日、元気出せよ!
未だに無言の探偵エルフさんは、なぜ、祭りを調査対象にしないのだろうか。
地域の祭りは、歴史と伝統の塊であり、調査すればするほど味が出るモノなのに。
その取り繕っていた無表情の仮面が、わずかに動いた。 エルフさんは、まず驚いて、それから子供のように喚いた。 「曹司童夢? あんた、大嫌い!」私は2度驚いた。幽霊でも見ているようだ。
黒いレディーススーツ、いわゆる喪服を着た縁戚のお姉さんこと、ドームが目の前に立っていたこと。そして、普段の落ち着きとは違った、直球の怒りを放つレナが目の前にいること。
不安定な心を間違った方向に突き動かすには、その二画分の予想外な行動だけで良かった。
何を思ったのか、私はレナの頬をぶん殴ろうとしたらしい。私の好きなドームを否定した。
それは私を否定したと同義だ。
普段なら有り得ないことだが、この日、私の心のバランスを保つ天秤は正常に機能していなかったのだ。私の怒りを前に、レナは驚いて地面に尻もちをついた。
間に入ったドームの頬を私の手が張り倒した。探偵エルフは、犯人にされるのを恐れた。
その場から立ち上がると、泣きながら自転車で逃亡した。
私はただ、手のひらを見て、その場に立っていた。
晴れの祭り会場には、雨が降っていないのに、手のひらに雫が落ちている。【広告・PR】
