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拾えなかった落しものの謎を追え!【推理編】
この罪深い手を、ドームの手が握る。
私は泣いているのを自覚すると、しゃっくりで声が出ず、どうしようもなくて謝れなかった。
ちぎれるくらいに強く、ドームは私の手を握った。
痛みで私、現実にギリギリ繋ぎ止められる。「あの、あの。ごめ……」
「謝るのは後だ。今すぐレナを追うぞ」
「……ッ?」
怒りの目をしていても。
久々に見たドームは大学生になったので、大人の女性らしく格好良かった。
長身で、長い手足、そして力強い手。赤茶っ毛の長い髪はシニヨン、祭りに似合わない喪服だ。
私の母が亡くなった後、私の家に居候しながらドームは自分の高校に通い、小学生の私に日常生活する力をくれた。無茶苦茶な人柄と行動力は、このお姉さん、昔から変わらない。
ただ、もうすでに探偵エルフは、逃避行を開始してしまった。
そして、ドームは自転車へ乗っていた。
「よし、行くよ」
「……」
声を忘れている状態の私は、コクリと縦に頷いた。私は自転車に乗り、レナを追おうとした。
だが、レナをすぐ追うように言ったドームは、自転車のペダルに足を乗せたままだ。
すると、向こうから。
アラクランでポテトを購入したばかりの、ミヒロとシアが歩いて戻ってきた。
「げ、ドーム」
「げ、とは何だ、ミヒロ。そっちにレナは向かわなかったよな?」
「普通に考えてみろよ、こっちの訳ねぇだろ。坂を下って行ったんじゃねえの」
「で、ソナタ、奴がどこに逃げそうか分かる?」
強引すぎる情報収集のやり方だ。
ドームらしいと言えば、そうなのかもしれない。
ただ、ミヒロに限らず、ドームも困ったら私に聞くのはどうなのだろうか。
レナが行きそうな場所は、思い当たるのが2か所だ。
1つはレナと初めて出会った場所、桂城公園。 もう1つは、私が怒って泣いた思い出の場所、秋田犬の里。何となく、今回も勢いで怒ってしまったので、もう1つの方が本命だと思う。
そう、あの春の事件は、秋田犬の里だ。私に隠して枝豆ソフトクリームを1本くれた。
本当は大きい犬が苦手なのに、レナは強がった。
つまり、レナが初めて私の前で、素の自分を出した事件だ。
隠しごとが出来なかった訳である。
「桂城公園、それか秋田犬の里」絞り出した声。
ドームの質問への返事を考えるより、言葉として声に出すのが辛かった。
ミヒロは、私の顔を見て、ただ真っ直ぐに見つめ返した。
そして口を開く。
「桂城公園なら、脚が悪いあたしと、おまけのシアでも行けるな」アラクランのポテトを貪る者シアは、口をモグモグとして、親指立てて「おんぶ任せて」というポーズだ。
「じゃ、そっちはミヒロたちに任せようか。祭りの音をカモフラージュにして、自転車で逃げるなら、私は秋田犬の里が本命だと思う」 「1人さなりてぇんだば、曳山車の音から離れた桂城公園の方じゃねぇの?」 「いいや。レナは自称、祭り嫌いの天邪鬼だ。本当は、姉を置いてでも行きたかったんだよ、地域の祭りにさ」何それ、とは思ったものの、ここは年長者のドームに私は従った。
ドームは持論を口にしてから、ようやく乗っていた自転車を進ませた。
2人に頭を下げてから、私も自転車で追いかけた。
大町から田乃坂を下り、小学校前を通過し、長木川河川敷へ至った。 先頭を走っていたドームは、西大橋へ行かず、河川緑地へ降りた。この緑地は、おまつり広場と呼ばれる区画だ。
当然、秋田犬の里はまだ先にある。また、よく分からないお姉さんの奇行だった。
その意味が知りたくて、私は自転車で追いかけた。
芝が草刈りされて綺麗になっていた。時折、生温い風だ。
ジメッとしていて気色悪い。
そこに自転車が2台止まる。
喪服の姉は、私の顔が見える対面へ回った。
「なぜ、あなたが殴ろうとしたか、自分の気持ちが分かるか?」
「レナは……。なして、ドームを嫌ってたが分かんねぇ。私の意見どご尊重してけねがったから」
「その解釈に誤りが2つあります」
「え、何、違うんだ」
私の認識が間違っていると、ドームは手の指でVの字を作って、端的に言った。
表情がない喪服の姉さんのペースだ。
私は話が分からず、もはや言葉にならなかった。
「1つ、私は嘘でレナを騙した。当然、嫌われる。2つ、あなたはいつもレナの意見を尊重しているかしら。まさか、自分だけ意見を尊重してもらっているの」 「今すぐ追えとか、なのに自転車に乗ったまま動かないとか、急に長木川河川敷を降りるとか。おめの話も行動も、全部、無茶苦茶じゃねぇが!」 「ソナタ、混乱しているのはあなたの方。今日は、あなたの母、歩亜さんの命日でしょ。私が喪服なのは墓参だから。一応、祭りに縁起悪い格好だとは私も思っている」「せば、私は正気じゃねがったのが。だばって、ドームは、なして私たちの間に入ったの?」
「あなたがお母さんのフアさんを殴る幻想を見てしまったから。憎たらしいけど、あの娘、フアさんに似ているの」私よりも感情を深く掘っていたのに、ドームは冷静に話す。
勘違いや間違い、嘘をついたこと、マイナスの行為を平然とした口調で、まるで開き直ったかのように、どうして喪服の姉は言えるのだろうか。吐き気がして気持ち悪いほど、正論。
まるで漆黒の法衣をまとった裁判官が、天秤を持って宣言しているようだ。でも、私の意見陳述に正当性を感じない。
ならば、判決は心して聞かないといけない。
すでに、私は裁かれる側だ。
最終陳述を私はした。
「2人で謝って済むと思う?」
「え、急に標準語でお淑やかになるのか」「え?」
「ごめん。あなたのギャップに驚いただけ。レナに許されようがそうでなかろうが、時間の経ち過ぎた私には、それしか選択肢はないからなぁ」
「どういう意味? 私『たち』じゃなくて、私?」
「詳しくは、レナとあなたが一緒でないと話しにくいかなぁ。今日のうちなら、あなただけなら、まだレナとの繋がりが切れないと思う。さぁ、行きましょう」 ドームが話してから何年も経った嘘の件をレナに謝る。それに比べて、私は時間がさほど経っていないから、誤れば丸く収まるチャンスがあった。
モヤモヤ感は、私の良識で間違ったことをしているから、絶対にしない行動をしたレナへの思い違いを起こして、本能的に不安だったのだ。
結果、今日の有り様だ。
レナに否定されたのを口実に、私は私自身を守るために、彼女を攻撃した。
それは、かつてミヒロとの喧嘩でも起きた間違いだ。間違った状態のまま、過去から今を改善もせず、寝て忘れて来た。
重い過程を理解するのが面倒で、友人たちの過去を知りたいのに、身軽でいたかった私は今日まで避けてきた。
本当は相手の過去がどうであれ、彼女たちと仲良くなりたいという、自分の欲求に気づいていた。
彼女にWA ROCKという石を見せられた、あの日から捨てた意志に価値があるって。
結論に近づくと、今の私は遠慮と嘘がごちゃ混ぜだった。特に今日、私は地元の祭りに行きたかったから、モヤモヤして満たされない状態だった。
なのに、強情だ。
勝手に今日楽しんではいけないと私が感じていた。
酷い言い訳だ。
そもそも生前の母は、私の楽しみや喜びを否定しなかったのに。
辛いと思うことで無理やり、亡き母との思い出を心に残してきた。
生きている娘の私は、もう先へ進まないといけないのか。
時間が経てば経つほど、積み重ねた思考の分、厄介に縛りつく鎖になっていた。
あぁ、なるほど。
謝れなくなったドームの話、意味が分かって来た。
自転車のペダルを漕ぐ足が重く感じる。鈍感だった心よりも、身体の動きはもっと正直なようだ。
西大橋を渡り、清水町の交差点を過ぎる。 秋田犬の里が、春の事件の縁で、私とレナを連れ戻した。『あの時、選ばなかった。その落としもの、今なら拾いますよね』と。
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