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冬の残滓 おこうの足跡の謎を追え!【事件編】
今年の冬は、どれだけの雪が降り、どれだけの雪を除排雪してきただろう。
湿った重い雪の除雪が増えたのは、地球温暖化の影響で日本海の水温が上がり、その海水の蒸発で雪雲ができやすいからだと、テレビ番組の気象予報士さんが言っていた。
白銀世界に喜んでいたのは、12月の一瞬だけだった。
1月の記憶というものが雪で埋まり、除雪を除いたら比内地鶏のおまつり以外のことは忘れた。悲しいけど、これが雪国なのよ、と私は思う。
という訳で、2月の第2週末がきて、今日は土曜日だ。
やはり天気予報通り、秋田の冬は最後の山場に差し掛かっていた。
朝から、ゴッソリと雪が積もった。
レナを寝床から起こしたけど、寝ぼけた同居人はこたつでまた寝ていた。
このエルフ娘が、猫の着ぐるみだった。
狙っていない女の子らしさの塊。
その綺麗な寝顔の可愛さは、あざといものだ。ため息。
猫の手も借りたいが、私はあざといエルフ娘をまだ寝かせることにした。
防寒具を身に着ける準備を整え、私は1人で外へ向かった。
イギリス産の娘は今日も戦力外だ。
朝のキンキンに冷えた中、父と私は除排雪に追われていた。
自宅用の小さい除雪機を使う父が、近所の除雪に行く段階で、私はお役御免となる。
父は、除雪後の用事もあるのでそのまま家を出る、とのことだ。
大きく頷き、私は家へ戻った。 「寒ぃッ」忘れていた寒さ。
暖かい室内で余計に感じる。
家の中に入って、私は思い出したのだ。
この寒暖差には、今季も最後まで慣れそうにない。
乾いたタオルで脚の汗を拭いていて、私はしかめっ面になった。女子力皆無の筋肉マシマシ。
冬の大バカ野郎め、私は心の中だけでも泣きたいぞ。
湿っぽい私の空気を読んでくれて、レナが温かい飲み物を持ってきてくれた。
「お疲れ」
「起きだんなら、手伝えっで」
猫エルフ娘から、ジンジャーシロップの葛粉入りカップを受け取り、私は文句を垂れながら飲んだ。 朝の労働後の、温活の飲み物が美味いこと、この上ない。じんわり身体の中から温まる感じと、弱った胃腸に良さそうなトロみ感がある。
冬の朝のちょっと贅沢、たまらん。感動で震える秋田人に、レナは手に持っていた菓子を差し出した。
「はい、煉屋のバナナ」 「甘、旨な。だばって、皮が口の中さ、くっつぐ」「ジンジャーで口を流そう」
「お、すげぇ。無限に食べられる。んな訳あっがいッ!」
もうすぐ出会って1周年を迎える私たちは仲良いコンビなので、会話がコントっぽくなることがある。
そうそう。
秋田ってお笑い芸人コンビだと、ちぇすさんや、ねじさんだね。
それはさておき。
今日は何の日か、猫の着ぐるみから、冬用探偵服に着替えたレナに尋ねた。
質問者の私も、雪と煉屋のバナナで思い出したのだけどさ。レナは、スンとした真顔で答えた。
「さてさて、バレンタインデー・イブか。なんだ、ソナタ君。チョコが欲しいのかい?」
「欲しいばって、秋田の小正月行事と言えばさ、あのイベントだべ」
「あ、これは嫌な予感がする」
「はい、時間切れだ。もうイベントとかバレンタインどころじゃねぇがら。来週がらの試験の勉強さねばねぇがら」
2回、ねぇがら。
大事なことは、強調して言う私だ。
知ったかぶりの顔になりかけていたレナ。
それを私は目を細めて脅かしたのだ。
すると、お約束の泣きそうな顔になったエルフ娘。
長い両耳が震えだした。
悲しみと驚きと混乱で、ただの乙女と化したエルフ、レナは羞恥心のままを叫んだ。「ん、試験だって! なんで言ってくれなかったの?」
「バレンタインを返上せば間に合うよんた」
「お菓子のイベントがなくなるのは困る。私のモチベーションには必要なんだよ」
「んだば、今日はアメッコ市さ行ぐが」
「アメッコ市……とは?」
レナはまだ1年を秋田で過ごしていない。
大館のアメッコ市をまだ知らなくて当然なのだ。意地悪が二重だったので、流石に私は説明してあげた。
大館アメッコ市。 およそ織田信長と豊臣秀吉の頃、天正時代を起源とする大館の小正月行事だ。 かつて砂糖が貴重品だったので、米で作った甘味料の飴を、餅につけて食べた農家の主婦がいた。 その飴をミズキの枝に結び、稲穂の代わりに神様へ捧げて、豊作祈願をする土地の行事が由来だ。 やがて農家の主婦が、大館の町で飴を売るようになる。 人々は1年間の健康と幸福を祈るため、各村から町へ飴を買いに来た。 そして、神棚へ塩と上げた飴を下げる際に食べる風習となった。 この飴を食べると、1年間、病気知らずというご利益があるとされる。 それに、田代岳の白髭大神が、雪にまぎれて飴を買いに来る伝承もあった。そんなこんな民話・風習をまとめて、アメッコ市としての観光行事は50年間続いている。
冬眠からレナを起こすには十分なイベントだった。
探偵さんは、目を輝かせて、雪が降り出した外へ飛び出した。
エルフさん、雪に喜んでいるように見えたので、私は飼い犬を運動させている気持ちになっていたけどね。
まぁ、レナが犬扱いなのは、私の脳内妄想の範ちゅうで。
寒々と震えながら歩くレナ。
ちょっと肥えても、虚弱体質は変わらず。
休みの日に連れ出したのは、ちょっと悪かったと私も思った。
道中のコンビニエンスストアに寄った。
そこで少し休憩にした。
休憩の間に、雪沢から旧友のミヒロを呼んだ。除雪で遅くなると言っていたわりに、旧友の祖父の車で早々に合流してくれた。
もう1人追加。
見慣れた顔、長身の娘が車から飛び出してきた。
「わーい。ソナちゃん、見ぃつけた!」
「シア、おおぅ!」
飼い主を見つけて、喜びながら飛びかかる秋田犬のようだ。
この娘が、シア。
残念な美人の級友、話すと子供っぽくなる。
「うーす。レナっこ、ソナ。待たせたな」
そして、気だるい声を発した、小柄なヤンキー娘がミヒロだ。
この旧友、病み上がりなので、私の感覚では1つトーンが低い声だ。
お孫さんであるミヒロがお礼を言うと、おじいさんは車を出した。
その後で、抱き付くシアを剥がしながら、私は口を開いた。「なして、シアが一緒にいんだ?」
「あたしが病み上がりだからさ、除雪を手伝ってくれたんだよ。つーか、うちの風呂に朝から入りに来た」
「あっはっは。んなことして、風邪ひかねぇんだな」
「お前のとこのレナっことは、身体の出来が違うんだよ」
私とミヒロは小学時代からの腐れ縁。
だけど、まだ若干かみ合わない冗談を言い合うときがある。
去年の数か月間で、かなり仲が戻った。
視点を変えて。
今のひどい毒吐き合戦で、傷ついたのはシアとレナだった。
「「悪かったねッ!」」
プリプリと怒った女子2人を追いかけて、私たちも田町の長い坂を上り出した。【広告・PR】
